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「梓乃~! ねえ、お願いがあるんだけど!」
「お願い?」
いつものように講義が終わって帰ろうとした俺に、彩優が寄ってくる。彩優は申し訳なさそうに手を合わせつつ、あざとい笑顔を作っていて、俺に「お願い」を断らせまいと無言の圧をかけてきた。
「今度瑠璃の誕生日じゃん? 誕生パーティするって言ったじゃん? そのケーキ、予約してきてくれない? 私これからバイトで急がなくちゃでさ!」
「はあ……いいけど」
「ほんと⁉ ありがとう~! じゃあ、ブランシュネージュで予約してきてね!」
「はっ⁉」
ケーキの予約くらいしてきてあげようと思って軽い気持ちで頷いた俺は、彩優の口から飛び出したケーキ屋の名前に目玉をひん剥いた。智駿さんに昔のことをちょっと聞こうって、でもそれは来週にしようって思っていたから、智駿さんに会う心の準備ができていない。
「ほら、パーティのスタート遅いでしょ? 夜までやってるあそこで予約したほうがよくない?」
「一次会飲み屋でやるんでしょ。飲み屋に言えばサービスでケーキだしてくれるよ」
「だめなのー! 瑠璃の好きなチーズケーキにしようって決めたんだから!」
「……はいはい、わかりました」
理由は、なんとなく理解した。ここで渋るのはどうにも冷たいような気がするし、別に今回の件は俺が勝手にモヤモヤしてるだけで智駿さんにそれが気付かれているわけでもないし。ここは承諾してやろうと、俺は首を縦に振ったのだった。
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