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 とうとうやってきた花火大会の日。街中は花火大会に浮かれる人たちで溢れかえっている。夕方にもなれば浴衣を着た人達がたくさん歩いていて、華やかだ。  俺は浴衣を着て、智駿さんとの待ち合わせ場所に立っていた。少し早めにきて、ずっとそわそわと周りを見渡していた。うなじの綺麗な女の子、鮮やかな色の浴衣、彼氏と手を繋いできらきらと輝いている笑顔。俺にはないものだなあ、と思いつつも、俺は俺で楽しむから気にはしない。 「梓乃くん」 「あ、智駿さん」  待ち合わせ場所にようやく智駿さんが現れると、俺は飛びつきたくなる衝動を抑えて智駿さんに駆け寄った。 「相変わらず待ち合わせして会うときは、犬っぽくて可愛いね」 「う、嬉しくて」  智駿さんのもとにたどり着けば、さらさらと頭を撫でられる。わあって胸のあたりが暖かくなって、俺はにやにやとにやけてしまった。  智駿さんは、なんとなく想像はしていたけど私服だった。男ってあんまり浴衣を着なかったりするから、そんなに残念にも思っていない。逆に智駿さんは俺が浴衣を着ていたからびっくりしたようで、俺の全身を見つめている。 「へ、変ですか……?」 「ううん……なんか、すっごくいいなって」 「そ、そうですか、えへへ」  智駿さんに見つめられると照れくさくなってきて、自分でも顔が赤くなってきたのがわかった。「可愛い」ってまた言われてさらに撫でられて、智駿さんと目を合わせるのもドキドキとしてしまってうつむいてしまう。  周囲から聞こえる、夏祭りの音。からんころんと下駄を鳴らす音なんかが聞こえてきて、ちょっとした沈黙さえも情緒的に感じた。 「いこっか、梓乃くん」 「……はい」  智駿さんに声をかけられて、顔をあげる。そうすれば微笑んだ智駿さんの顔が俺の視界のなか、まばゆかった。歩き出した智駿さんの隣を付いて歩いて、時折ぶつかる手に焦燥を覚える。男同士だから、外で手を繋いだりはできない。それに特別不満を覚えたことはないけれど、こんな雰囲気の中手を繋げたら幸せだろうなあ、なんて思った。たぶん、それは智駿さんも同じ。ちらりと目を合わせたときに、「仕方ないよね」って言いたげに目を細めてきたから、そんなひっそりとした気持ちの共有がまた楽しく感じた。

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