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 渋い顔をする梓乃くんを押しのけて、俺は智駿の部屋にはいっていった。部屋の中は相変わらず中途半端に散らかっていてこいつのイメージにそぐわない。 「うっ……白柳……」 「よォ智駿。ださいねェ」 「……なんでいんの」 「いや面白そうじゃん?」  智駿も梓乃くんと同じように顔をしかめて俺を見る。付き合っていると似てくるのだろうか。「次、白柳が来たら締め出していいから」なんて梓乃くんに言っている智駿をみて、俺は舌打ちする。 「ちょうどいいや、智駿くたばってるなら私に梓乃くんくれよ」 「くたばってない、梓乃くんはあげない」 「はァー、けちけちすんなって」  肩を組もうとすればサッと避けて逃げていった梓乃くんを、俺はじーっと眺める。小動物みたいで可愛い。あれを手篭めにしている智駿が、なかなかに羨ましい。  智駿も梓乃くんも、俺に思いっきり警戒心出していて、見ているぶんには面白い。なんというか、智駿が恋人に対して独占欲をみせているところを、みたことがないのだから。智駿はいつも色んな人に対して付かず離れず、ふわふわとしていて幽霊みたいなんて言ったらおかしいけれど、浮世離れしていた。そんななかで妙な縁のあった俺はこうして無駄に付き合っているわけだが。 「あ、そうだ智駿、おまえが動けないあいだ、梓乃くんの体、開発しておいてやろうか!」 「帰れ」 「え~? お医者様の手にかかれば梓乃くんの性感帯すごいことになるよ~?」 「帰れ」  しっ、しっ、と智駿が俺に手を振ってくる。失礼なことだ。  まあ智駿がこんな態度をとるのは俺くらいだし、大目にみてやる。梓乃くんに持ってきた食料を手渡して、俺はさっさと退散してやった。

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