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 校門をでても、俺は何もしゃべらずに智駿の隣をついて歩いていた。何で智駿を連れて学校を出てきたのかわからない。ただ俺は自分の成績の悪さにイライラして、目に入った嫌いな奴にやつあたりをしてしまっただけで、別に智駿に特別言いたいことがあるわけじゃない。だからずっと黙っていたわけだけれど……智駿まで、黙っている。いつもなら「言いたいことがあるなら言ってよ」とか言ってきそうなのに。こんな時に限って智駿は、俺の言葉を待っているのだ。弱音を吐くなら吐けば、聞いてやってもいいけど、そう言いたげに。  だから、俺はポロリと言ってしまった。ずっと自分のなかにとじ込めていた想いを、ポロっと、その雰囲気に引きずられるようにして智駿の前で吐き出し始めてしまった。 「……別に俺、本当に医者になりたいってわけじゃない」 「……ふうん」 「こうして進学校に入ってさ、周りが大学目指して勉強しているからなんとなく自分も同じように勉強して……気付けば進路を決める時期になっていたから、なんとなくすごそうな医学部目指した、それだけなんだよ」 「……ふうん」  智駿は話を聞いているのかいないのか、といった曖昧な相槌をしていた。でも、それが俺には心地よかった。俺は誰かに聞いて欲しかったんじゃなくて、ただ吐き出したかっただけだから。たぶん智駿はそんな俺の気持ちを汲んでこんな反応をしている。だって、全く聞くつもりがないならさっさと先に帰っているだろう。智駿はもっと、歩くスピードが速かったはず。 「……まだ18歳なのにさ、夢なんてみつけられないよね」  ぼそ、と智駿が前を見ながら呟いた。それは……俺に言っているのだろうか。いいや、「独り言」という(てい)で聞いていたほうがいい。さっきの俺の愚痴だって、相談じゃなくて独り言だ。 「僕は……ただおじいちゃんの店に憧れたから、パティシエになりたいって思った」 「……うん」 「でも、僕自身のパティシエっていう職業への想いはないのかって考えると……なにもないんだ。ただ、あのお店が好き、それだけ」  智駿の話は、俺とはまた違う悩み。夢は決まっているのに、夢にたどり着くまでの過程が曖昧だって言っている。夢が決まっているなら目指せばいいじゃないかって思うけれど、その想いが曖昧だったなら、きっと実際にその職業に就けたときに挫折してしまうだろう。  俺からすれば、そんな考えができることすら羨ましいけれど。夢すら決まらない俺には、自分の夢を見直すことすらできない。 「おまえは僕のことをいいよなって言うけれど、僕はおまえが羨ましい」 「……は、」 「僕にできないことを簡単にやるからさ」  ただ俺は、ひたすらに智駿を羨んでいた。だから、智駿に「羨ましい」って言われて耳を疑った。何か間違いでも言っているんじゃないかと思って俺が口ごもっていると、智駿がチラリと俺をみてくる。 「……白柳はさ、」  そのとき、視界に「たからばこ」が見えてくる。智駿のことしかみえなくて、いつの間にか俺は智駿についてここまで来てしまったらしい。別に今日はここに用事はないんだけど、と引き返そうとすれば、「よっていけば」と智駿がぶっきらぼうに言う。  ……智駿が、何を言おうとしたのかが気になったが、聞くタイミングは逃してしまった。

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