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「また智駿くん、彼女できたんだって」 「へー」  聞きたくもない智駿の噂が耳に入ってくる。奈々と別れて数日と経たないうちに智駿は新しい彼女ができたらしい。近くにいた女子が親切にも教えてくれたが、俺は「またか」と呆れるくらいで大して興味はもてなかった。俺の興味はもっぱら模試の点数。先程返された全国模試の結果が芳しくなかった。 「……」  ちらりと智駿を横目でみてみる。新しい彼女ができたらしい智駿くんは、また放課になった瞬間にさっさと帰ろうとしていた。……俺には、その姿が妙に腹立たしく感じた。  智駿には、夢がある。専門にいく人って、今の時点で夢がはっきりと決まっている。俺にはそれが羨ましい。だって、俺はただ…… 「……いいよな、おまえは模試の結果なんてどうでもよくて」  智駿は俺の持っていないものを持っている。簡単に彼女を手に入れられる容姿、夢。そして夢を持っているが故に、今の俺が抱く自らの未来への不安はきっと持っていない。全てが腹立たしい。くだらない嫉妬だとわかっていても、智駿がムカつく。  気づけば俺は嫌味を吐くと共に、帰ろうとしていた智駿を引き止めていた。

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