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――――― ――― ――  高校を卒業してはや数年。縁があって俺はこの町で医者として働くことになった。別に智駿と同じ町に住みたかったわけではないが、「この町で働きたい」なんて思ってしまった時点で、俺たちの腐れ縁は続行されたわけだ。高校を卒業するあたりでは俺は東京にでもでて働くだとか思っていたが、大学在学中にいつのまにか地元志向に切り替わっていた。  俺がこの町に帰ってきたころには、智駿は自分の店を持っていた。その歳で大したもんだと感心したのを今でも覚えている。 「よォ、元気になったか、智駿」 「……」  そして何よりだ。最近一番驚いたのは、智駿が見つけたことだ。「運命の相手」ってやつを。  今までの智駿だったらありえないくらいに溺愛して、俺が手を出せば怒るくらいに独占欲を抱いている。そしてその恋人は恋人で、智駿が風邪をひけば甲斐甲斐しく看病しにきちゃうような純粋っ子で可愛い。 「……今僕は仕事中なんだけど。邪魔をしないでくれるかな」 「いやぁ、私は休憩なんだよねェ。おまえの恋人について語り合おうかと」 「白柳に梓乃くんを語られたくないんだけど」 「ひゅー、智駿は怖いねェ」  参ったことに、俺もその智駿の恋人・梓乃くんが可愛くて可愛くてしょうがない。願望としては智駿の目の前で犯して泣かせてみたりしたいけれど、それはさすがに人間としてアウトだから願望として止めておく。ああいう小綺麗な顔をした純粋な子は虐めたくなってしまう。  ヤるならヤっちまえばいい、って思っている。が、それをしたら智駿がどうなるかなぁ、と考えると踏み出せない。たぶん梓乃くんが智駿にとって今までの恋人たちと同じ存在であったなら、遠慮なく奪っていただろう。でも、梓乃くんは…… 「智駿ってさァ」 「なに」 「……梓乃くんのこと、狂うくらいに愛していますか」  俺の見る限り、初めて智駿が「好き」になった人。あの、人の愛し方をろくにわかっていなかった智駿が、恋をした相手。 「……そうだね。僕は、梓乃くんに狂っている」  高校生の智駿が願った、「狂うような恋をしてみたい」という願いを叶えた子。梓乃くんに手を出したくて堪らなくて、虐めたくなるけれど、そう思うと結局俺は何もできない。  すごく、複雑な気持ちだ。あの智駿の特別になれた梓乃くん。あの可愛い梓乃くんを手に入れた智駿。なんだかんだ俺は智駿のことを気にかけていて、どこか特別な存在だったから、そんな奴が俺の全く知らない男になっていることが少しさみしい。俺は、どっちを羨んでいるんだろう。 「……そういうわけだから、梓乃くんに手を出すのだけはやめてくれる? 友人の恋人に手を出すのは良くないよ」 「……さて、どうかねェ」 「……梓乃くんに殺虫剤もたせておかないと」 「私は虫じゃないぞ!」  でも、お互いにお互いを「友人」と呼べるようになったことには満足している。  まあ、「友人」という言葉を気恥ずかしく思う青臭い時代なんてとうの昔のことだ。俺たちはもう大人になっていて、お互いのことを「友人」という特別な存在であると思っている。 Madeleine~恋せよマーメイド~ fin

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