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「あっ、梓乃ちゃん。金曜の夜大丈夫だった?」  週明け、俺が学校につくなり彰人に言われた言葉が頃の僕はれだ。昨日智駿さんをみるなりピュッと帰っていった彼。完全に他人事のようにそんなことを聞いてきた彰人にイラッとしたが、実際のところ何もなかったのでいいとする。 「全然大丈夫、あのはただの酔っ払いだったし」 「そっかー、よかった。なんか話きいてると智駿さんって嫉妬深そうだから、てっきり梓乃ちゃんオシオキされちゃってるのかと思った」 「……」  ……オシオキ。オシオキ、されたかったんだよ!なんて言えるわけもなく。俺は苦笑いを返すしかない。 「いやぁ、ぶっちゃけオシオキされてる梓乃ちゃん想像してたらドキドキしちゃったよね。あの結城とかいうやつの気持ちわかったかも」 「わかんなくていい!」  なんだか俺の周りって変態しかいないのかなあ、俺も人のこといえないけれど……って悶々としていると、少し離れたところからぱたぱたと足音が聞こえてきて、それが近づいてくる。なんだと思って振り返ると…… 「うわっ、結城」 「織間さーん! あとそのお友達さん! おはようございまーっす!」  結城が、駆け寄ってきていた。この授業は全学部共通のものだから、結城がいてもおかしくはない。色々とヤバイ結城とこんなところで会ってしまって、俺は思わず顔を引きつらせてしまった。 「織間さん! どうっスか、彼氏さんとエッチなことはできましたか!」 「こんなところで何言ってんだ馬鹿!」 「できてないんスね! 相談にのるっス!」 「話をきけ!」  結城はそれはもう人懐っこい犬のように俺に寄り添ってくる。するんと俺の席の隣に座ると、ぱっと目を輝かせて俺を見つめてきた。ぶんぶんと振られている尻尾の幻覚がみえる。 「俺……色々考えたんっス……」 「な、なにを……」 「織間さん……やっぱりドエムなプレイが似合うって……縛られて痛いことされてあんあんいってる織間さん可愛いっスよ……」 「……その妄想は」 「週末の俺のオカズっス」 「……」  ふふ、と照れたように笑った結城は、可愛い表情はしているけれど全然可愛くない。何、人のそんな姿を想像してオナってんだよ、って突っ込む気もなくなるくらいの、清々しい変態っぷりだ。  俺も自分が変態の自覚はあるけれど、ここまですごいのに迫られると困ってしまう。彰人に助けて、と視線を送ってみたけれど、なにやら彰人は怒る様子もなく顎に手を当てて唸っている。 「……それは同意する。梓乃ちゃんにエッチなプレイ似合うよね」 「同意してんじゃねー!」 「でも梓乃ちゃんをオカズにしていいのは俺だけだから。おまえはだめだよ」 「おまえもだめだから!」  期待した俺が馬鹿だった。俺が落胆している横で、彰人と結城の二人は真面目な顔をして話を始める。 「織間さんの彼氏さん、あんまり織間さんのこといじめてくれないらしいじゃないっスか」 「そりゃだって、梓乃ちゃんの彼氏は見た目からして梓乃ちゃんのこと大事にしてそうだもん。話きくと結構夜はすごいらしいけどさ」 「いやいや、知ってますよ! 織間さんの買っていく道具がどんどんマニアックになっていってること! つまり織間さんは彼氏さんに開発されてドエムになってるんでしょ? 織間さんをドエムに育てるなんて相当サディストですよその人!」  やめてくれー、と俺は机に突っ伏した。幸い俺たちの周りの席は空いていて、二人の会話が他に聞こえていることはないと思う。でも、こんな風に二人に俺のMっぷりについて語られると恥ずかしくてしょうがない。そして、結城に俺がMになっていく過程を観察されていたのかと思うと、穴があったら入りたい気分になる。 「次は織間さんが彼氏さんをドエスに育てる番ですねー! やられたらやりかえさないと!」 「そうだよ梓乃ちゃん! 自分ばっかり開発されるの悔しいでしょ!」  ぐいぐいと二人が俺に迫ってくる。俺は何を強いられているのかもわからなくなって、二人の勢いに押されてこくこくと頷いた。  講義開始のチャイムがなって講堂に教授が入ってくる。そうすると二人の声のトーンは下がっていって、「授業終わったらさ、」と何やら話し始めた。

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