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 少し歩いて、そういったお店が並ぶ通りにやってくる。すれ違うキャッチの人たちは、明らかに誰かをつけている風の俺を、不思議そうな目でみていた。  やがて、三人はセラの店らしきところにやってくる。さすがに店構えをみると、ホストクラブではないと智駿さんも白柳さんも気付いたらしい。頭の上にハテナを浮かべているような顔をして、店にはいっていく。 「えー、ちょっ、入るの、ヤるなよ、ヤるなよ……」  セラに押し込まれるようにしてはいっていった智駿さんと白柳さんを、俺は顔を引きつらせながら見ていた。このまま個室に連れ込まれたら、もしかしたらセラのとんでもな誘惑とかをされて……なんて考えてゾッとする。  嫌な想像が重なりに重なって、頭が痛くなる。智駿さんは今は飲んだ後っぽいしまともに理性が働かなかったらもしかして……なんて。落ち込んで落ち込んで、どよんと気分が暗くなって、もう帰ろうかな、と店に背を向けようとしたときだ。入り口から智駿さんが困ったように笑いながらでてきた。 「いやあ、僕はそういうことはやらないって決めてるから」 「ええ、どうしてです?」 「梓乃くんがいるからね」 「うーん、そういうもんですか? 残念……」  智駿さんの言葉を聞いて、ぱっと胸の中が晴れる。よかった、やっぱり智駿さんはそんなことをしない――そう安心した最中だ。セラが智駿さんに抱きついて、ぐっと背伸びをして―― 「――ちょ、ちょっと待てェ!」 ――キスをしようとしていた。  さすがに限界がきて、俺は飛び出して二人の間に突っ込んでいった。二人ともびっくりしたようでぽかんとしている。 「ち、智駿さん! 人たらしもいい加減にしてください! そうやって油断しているからこういうのに狙われるんですよ!」 「ご、ごめん、待って、違うよ梓乃くん、」  智駿さんはめずらしく動揺している。別に智駿さんは悪くないというのはわかっているけれど、キスをされる隙をつくったのはムッとしてしまう。きーっと俺が怒って迫れば、智駿さんは平謝りを繰り返してきた。 「梓乃くん! こんばんは! どうしたの、こんなところに!」 「悪気なしかよすごいねセラは!」  そんな、軽く喧嘩をしているような俺たちに、セラはまるで関係ないですみたいな顔をして笑いかけてきた。ここまでけろっとされると怒る気にもなれず、俺はとりあえず「智駿さんにキスをしようとした罪」でぽかんと頭を叩いてやる。 「そういえば、白柳さんは?」 「ああ……白柳は店のなかに……」 「え?」 「せっかくだからヤってくとかなんとか……」 「白柳さんさすがすぎ……」  そして白柳さんはまさかのお店を満喫しようとしているとか。俺は苦笑いをしながらも、そんな行動に違和感を感じさせない白柳さんがすごいなんて思っていた。 「うーん、今日は残念です! 智駿さん、今度こそ俺のお店にきてくださいねー!」  反省の色無しのセラをもう一度ぽかっと叩いて、俺は智駿さんの手をとって歩きだす。なんだかすごい奴と関わっちゃってドッと疲れた。セラのことは嫌いではないけれどもう会いたくない……なんてため息をつきながら、俺たちは店を後にしたのだった。

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