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 ホテルに到着すると、まずドアマンが出迎えてくれる。ドアマンが出てくるようなホテルイコール高級ホテルというイメージを持っている俺は、その時点で緊張してしまう。  ロビーへ入っていって、チェックイン。ロビーには英語で話しているスーツを着た外国人がいたり経済新聞を神妙な面持ちで見つめている男性がいたりして、いかにもな雰囲気。俺は雰囲気にのみこまれてしまって、智駿さんの後ろについて縮こまっていた。智駿さんがチェックインしているときも、黙り込んで自分の存在を消そうとしてみる。  そんな風にして俺がチェックインの時点でビビっていたときだ。後ろから声がかかってくる。 「――智駿、久しぶり」  現れたのは、爽やかな顔立ちをした若い男性。智駿さんは彼を見るなり「ああ、久しぶり」と言っていて――もしかしたら彼が、新見さん。 「今ちょうど休憩中なんだ。そろそろ智駿がくるかなって思って、出迎えにきたよ」 「そうなんだ、ありがとう。こんな立派なホテルで働いていたんだね、新見はすごいなあ」 「うーん、……うん」  新見さんはにこにこと笑って智駿さんと俺の案内を始める。フロントから渡されたのは、ホテルの15階の部屋。彼はそこまで連れ行ってくれるらしい。  新見さんは、エレベーターに乗りながら智駿さんに色んな話を振っている。調子はどう、変わったことはあった、そんな他愛のない話を。少し気になるのは、どんな話をしていても智駿さんが複雑そうな顔をすること。自分の話をするときに、智駿さんはどこか言いづらそうに話しているのだ。 「ところで、お連れの方は……ご友人?」 「ううん、恋人」 「えっ!? ああ、そうなんだ。可愛らしい方だね」  話の途中で智駿さんが堂々と俺のことを恋人と紹介したのにはびっくりした。でも、こんな高級ホテルに連れてくる連れっていうと否応なしに恋人ってなると思う。新見さんも少しは驚いている様子だったけれど、わりとすぐに納得したようだ。 「もう少ししたら、俺もまたカフェに戻るから、そうしたら智駿と彼もきてよ」 「うん、そうするね」  部屋に到着すると、新見さんがにっこりと笑ってそういった。新見さんがそのときちらりと俺をみたからどうしたんだろうって思ったけれど、何も言わずに去って行ってしまう。  智駿さんは参ったなあとでもいいたげに苦笑して、カードキーで扉を開けていた。やっぱり智駿さんの様子が変だなあと思っていると、智駿さんが言う。 「部屋の中でちょっと話すね」 「……あ、はい」  智駿さんは俺が新見さんのことを知りたがっているのに気付いたようだった。このようすだとあまり楽しい話ではないんだな、そう思った。

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