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Coussin de Lyon~フルヴィエールの丘から愛が降る~

「あ~、今日髪型上手く決まらなかった~、さいあく」 「……あんまり変わんなくない?」 「ぜんぜん違うって! ふんわり感が出なかったの、今日!」  金曜の一限の授業は、彩優と二人で受ける授業だった。先に教室についてパックのミルクティーを飲んでいた俺の横に、いつもと変わらずおしゃれな格好をした彩優が座ってくる。そろそろ授業が始まる時間ということで俺がだらだらとルーズリーフを準備していれば、その横で彩優はコンビニの袋から何やら雑誌を取り出していた。 「……いや、教科書だそう?」 「いいじゃん、この授業どうせ暇だし」 「まあね」  俺だって、そんなに真面目な性分じゃない。ツッコミはいれたものの、彩優が授業中に何をしようが興味ない。ただあとからノート見せてとか言うなよ~って心の中だけ言っておいて放っておこうとしたけれど……彩優が雑誌を何ページかめくったところで、俺の心臓はどきっと跳ねる。 「……彩優、その子」 「え?」 「いや、そのページに載ってる、この子」 「何? 知り合い?」  すっかり秋物のファッションが載っている、その雑誌。そのなかの、ワイン色のカーディガンが目を引くモデル――「楓」に俺の目は釘付け。 「え……いや、高校のとき……」 「も、もしかして同じ高校とか!?」 「いや、高校は違くて、」 「じゃあ何?」  ぱっちりとした目、さらさらの深い茶色の髪、きゅっとあがった口角とトレードマークのえくぼ。大きく写真が載っているところをみると「楓」は人気のモデルのようで、彩優も彼女のファンらしい。目をきらきらとさせて俺をみてくるけれど……俺は苦い顔をするしかない。だって、彼女は…… 「そ、そのー……」 「?」 「つ、……付き合ってました」 「は!? 元カノ!?」  俺の、彼女だった人だった。

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