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「智駿さん、知ってます?」
「ん?」
一緒にお風呂にはいっていると、梓乃くんがぽそりと言う。甘ったるい声がほんとうに可愛かったから、僕は思わず抱きしめる。首元に顔を埋めると、梓乃くんはくすぐったいのか体をよじりながらくすくすと笑った。
「一緒に死んだ恋人って来世でも一緒になれるらしいですよ」
「スピチュアル?」
「いや、なんか友達の女子が言ってたので」
「ふうん。じゃあ僕と梓乃くんは前世で一緒に死んだのかもね」
梓乃くんは、なんとなく言ったらしい。友達から聞いた変な話、みたいなノリで。でも、僕は結構その話を真面目に受け止めていた。
梓乃くんの話は、いわゆる、運命みたいなものだろう。僕は梓乃くんとの出逢いを運命だと思っているから、梓乃くんの話をつい信じたくなる。だって、ほんとうに人を好きになったことのない僕が一目惚れをして、気を抜けば狂いそうになるくらいに好きになるなんて、そんな出逢いはそうそうないはずだから。
「やっぱり俺たち、前世では一緒に死んでると思います?」
「そうなんじゃない?」
「じゃあ、現世でも一緒に死んだらまた来世で一緒になれますね」
「死ぬなんて縁起の悪い……」
「いやいや、おじいちゃんになってもずっと一緒ってことですよ」
「……そっか。じゃあ、永遠に一緒にいようね」
無邪気に笑う梓乃くんに、何故か泣きそうになる。「永遠」をあたりまえだと思ってくれているのが、本当に嬉しい。
梓乃くんの首元で光る、ネックレス。僕がプレゼントしたものを、梓乃くんは肌身離さず着けていてくれる。僕がそれを指で玩べば、梓乃くんは振り返って微笑んだ。
「智駿さん」
「……、」
「俺、そんなにふわふわしたことを信じるタイプじゃないんですよ。でも、智駿さんとの出逢いは運命だって思ってます」
梓乃くんが、体の向きごと変えて僕と向かい合う。そして、甘い甘い眼差しで、僕を見つめた。
「出逢ったときから、好きでした」
梓乃くんが、僕にキスをしてくる。
ほんの少し、目頭が熱くなった。この場所が、お風呂の中だということに感謝する。涙がこぼれても、髪の毛から滴る雫と紛れて、バレないだろうから。
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