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 梓乃くんを抱きしめて布団にもぐる。お風呂あがりでほこほことした体と、乾かしたばかりのさらさらふわふわとした髪の毛がとても可愛らしい。僕と同じシャンプーの匂いが鼻をくすぐって、甘酸っぱい気持ちになる。 「もう寒くなってきましたね」 「ちょっと前までは夏だったのにね」 「智駿さんと一緒にいるとあっという間に10年とか経ちそう」 「そうだねえ」  こうして一緒に寝ることも、僕たちの間ではあたりまえになっていた。なにも疑わず、僕たちはこれからもずっと一緒にいるんだと思う。  こんな恋人と一緒になれたことは、ほんとうに幸せだと思う。梓乃くんが言っていた運命は、ほんとうなのかなと、そう思った。梓乃くんと出逢ってから、僕の世界は変わったから。そんな梓乃くんに、僕は初めての一目惚れをしたから。  そんな、運命の出逢いをしたときのことを思い出すと、今でも不思議だ。ただの客として僕の店にやってきた梓乃くんに一目惚れだなんて、そうそうないこと。女の子の夢見るような赤い糸が、そこにはあったのかもしれない。

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