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「智駿くん、わりと冷たいんだね」 「――え?」  高2のころ、付き合っていた彼女に振られたときの言葉が、これだった。僕は一体何に問題があったのかわからなくて、戸惑って――何も言い返せなかった。  そして白柳に散々言われたのが、「おまえは彼女のことを好きになっていなかった」という言葉。僕は僕なりに彼女のことを好きだったと思っているのにそう言われて、腑に落ちなかった。何もかもがその人に捧げたくなるのが恋なのだと言われて、それなら恋なんてしなくてもいい、そう思った。だって、僕の内側に他人が入り込んでくるなんて、鬱陶しくてたまらない。  まあ、もしも誰かに狂えるくらいの恋ができるなら――一生のうちに一度くらいはしてみたい、そう思っていた。 「――もしよければ、僕と付き合ってください」  そんな風に思っていた――それはたしか、20歳のとき。気になる子がいた。僕から気になるということが今までなかったから、もしかしたらこの人とならば恋ができるかもしれない、そう思った人。彼女の名前は、凛。どこか影のある目はしていたけれど、華奢で美しく、優しい子だった。

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