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エッチが終わった後は、ベッドの上で二人でのんびりとしていた。ラブホテルの大きなベッドは二人で入っても余裕のサイズで、なんだか贅沢な気分になれる。僕にくっついてうとうととしている梓乃くんの髪の毛をいじりながら、僕も徐々に降ってきた眠気に体を受渡していった。
「……智駿さん」
「ん?」
「……俺、時々思うんです。こうしていられるのが、夢みたいだって」
梓乃くんの瞼は、落ちてきている。眠気絶好調のなか、梓乃くんは微笑んでいた。愛らしい表情にどきっとしていると、梓乃くんは続けて甘い声色で僕に言ってくる。
「今まで生きてきて、こんな日がくるとは思っていませんでした。自分が誰かに恋をして、すごく幸せになっている未来なんて、想像もできなかったから」
甘すぎるほどの、口説き文句。梓乃くんはものすごく眠そうだし、狙って言っているなんてことはないだろう。常にこんなことを思っているんだなあって思うと、たまらなく愛おしい。
「……梓乃くん。君はきっと、今でも想像できていないと思うけど」
「……え?」
梓乃くん、本当に眠そう。僕が無茶をしたから。
だから、言うんだ。いっそこのまま眠ってしまって、この言葉は聞かなかったことにしてくれていい。まだ学生の君には、ちょっと重いだろうから。
「僕はね――」
梓乃くんの目を、手のひらで覆う。そうすれば、梓乃くんはやがてぱたんと眠りに堕ちてしまって、寝息をたてはじめた。
凛にも言った。僕が梓乃くんに対して、想っていること。正直聞かれたくないけれど、言葉に出してしまいたい。梓乃くんの奥の心に、ちょっとだけ置いて欲しい。
「――君を幸せにする覚悟が、できているよ」
きっと、これから君は迷うと思う。子どもから大人に変わる君は、いつか僕達の関係について悩むと思う。
男同士の恋愛は、いろいろと難しいんだ。僕はもうすっかり大人になってしまっているからかえって悩まないのだけれど、まだ自分の未来を測れていない君は考えることがあるだろう。
でも僕は。たとえどんな辛いことがあったとしても、君の側を離れない。その誓いは別に梓乃くんに聞いて欲しいわけじゃなくて、僕のなかで護っていたい。
「梓乃くん、おやすみ」
大好きな梓乃くん。君の寝顔を見るたびに、君に出逢えて本当に良かったって、思うんだ。
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