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「おまえ、そいつのこと好きなの? っていうか付き合ってたりする?」 「……い、いや、だから、そういうのじゃないので、……」 「あー……、いや、いいんだけどな。おまえが、ちゃんとした相手がいるならそれはそれで」 「……、は?」 「え、何」  キツイ言葉が飛んでくると思っていた。しかし、白柳さんは。穏やかな表情で、あっさりと引いてしまった。  彼の態度に、俺は頭の中が真っ白になる。  ――ショックを受けて欲しかった、なんて。 「もっと……違うこと、言えないんですか。俺、アンタの知らない男に抱かれてるんですよ……?」 「――……、……俺が首突っ込むことでもないよな?」 「……っ」    自分で自分が何を考えているのかわからなくなった。  自由でいたいのに、ずっと羽ばたいていたいのに。だから、心を彼のもとに置きたくなかったのに。 「もう、白柳さんのところに戻ってこないかもしれないんですよ……? それでも、いいんですか……?」 「……戻ってくるのか、こないのか……それはおまえが決めることだ。俺が指図することじゃない」 「……白柳さん」  自分の想いと、願いが、反発し合う。白柳さんへの想いが「飛ぶな」と言う、飛びたいという願いが「想いなど抱えるな」と言う。今まで上手く振る舞えていたはずなのに、コントロールできなくなっている。    白柳さんも、今までの態度とそう変わらないのに、やけに彼の言葉が冷たく聞こえるのは、俺自身がおかしくなってしまったからだろう。いやに哀しくなってきて、泣きそうになって、俺はつい白柳さんに縋りついて自分でも無意識に言ってしまう。 「白柳さん、もっと俺を縛り付けてよ……」

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