294 / 329
6(3)
ぽろりと口から出た自分自身の言葉に、俺は驚いた。
こんなこと――俺は、考えてはいない。俺は、縛られるのが何よりも嫌なはず。俺は……白柳さんが、俺が窪塚さんに抱かれたことを聞いても動揺の一つも見せなかったことに、ショックを受けていたらしい。
俺は白柳さんを好きになりたくないのに、白柳さんには好きでいて欲しい。ああ、俺って、自分で思っていた以上に勝手な人間だ。
白柳さんは愛想をつかしただろうか。急に俺が変なことを言ったから、不信に思っているだろうか。白柳さんに嫌われるのが怖くて、俺は、顔をあげることができず白柳さんに抱き着いたまま黙り込む。
「――俺は、おまえを縛ろうと思えば縛れるけど、縛って欲しいの?」
「……え?」
「おまえがそうして欲しいっていうなら、するけど。俺だって、したいんだよ、本当は」
「……白柳さん? ……わ、」
自分の身勝手さに呆れて言葉を失っていた俺を、白柳さんが押し倒してきた。急に視界が反転したものだから、俺は呆然と間抜けな声をあげることしかできなかった。
「んっ……」
白柳さんが俺の首筋にキスをしてくる。それだけで俺の体はゾクゾクと反応してしまって、思わず身をよじって彼から逃げた。しかし白柳さんは俺の体を抱きこめるように拘束してきて、俺は逃げることもできない。
「ん、……あっ……、ま、待って、白柳さん……」
「痕つけてやろうか」
「へえっ!? だ、だめです、……あ、あぁっ……だめっ……」
ちゅ、と白柳さんが俺の首筋に吸い付く。ちく、と仄かな痛みが走って、白柳さんにキスマークをつけられたのだとわかった。白柳さんにそんなことをされるのが初めてだったので、俺は目の前がちかちかと白むような感動を覚えて、そして同時にそうして歓びに震える自分に恐怖を抱く。
嬉しい。すごく、嬉しいのだ。彼にこうして愛情を向けられることは、すごく嬉しい。でも、こうして愛される喜びに押しつぶされてゆくことに、言葉にし難い恐怖を覚える。自分が自分でなくなってしまうような。
「あっ……ダメ……」
「縛って欲しいんだろ」
「だっ……だめ、白柳さん、これ以上……!」
ぐっと服を捲り上げられて、俺は慌てて彼の手を掴んで制止した。
頭の中で警報がなっていた。これ以上されたら、おかしくなってしまうぞ、と。
「……白柳さん……だめ……」
どくどくと心臓が高鳴って、息が上手くできない。声も震えて、かすれてしまう。
俺があんまりにも必死に止めたからか、白柳さんは動きを止めてくれた。溜息をついて、そっと俺の頭を撫でてくる。
「おまえ、無理やりは好きじゃないんだろ。束縛だって嫌いなはずだ。ほら、ちゃんと言えよ。俺にどうしてほしいの」
「……え?」
「え、じゃなくて。本当は俺にどうしてほしいか言えって言ってんの。わからないならわからないでいいしな」
「……わ、わからない、……。わからない、です。……でも、なんか……白柳さんが俺のことどうでもよさそうだからむかむかして、……こう、もうちょっと、なんかあってもいいじゃんって思って……」
「ほお」
「で、でも……だから、今みたいにされたの、少し嬉しかったんですけど、……でもそれはそれでなんか違うような……」
問われて、俺は困ってしまう。この気持ちを上手く言葉にすることができない。
もごもごと口ごもる俺を見て、白柳さんは笑っていた。「可愛いな」なんて言いながら頭を撫でまわされたからむかついて、その手を払う。
「ま、そんなに難しいことじゃないよな。セラ、なんでおまえ、俺が嫉妬しないと嫌なの?」
「しっ……嫉妬!? 別に嫉妬してほしいとか言ってないよな!?」
「で、なんで?」
「……なっ、……なんでって。……それ、言わなきゃいけません?」
「言え」
「……す、……好きだからですけど。それが何か!」
ともだちにシェアしよう!