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 *  ――ああ、空が蒼い。   白柳さんに抱かれて、そのまま一緒に夜を過ごして、朝がやってくる。窓越しに見える空が、ひどく遠く青いものに思えた。このまま、飛んでいけそうだな、なんて思う。 「う……ちょ、……おい、眩しい……」 「……もう、白柳さんも起きた方がいいんじゃないですか。朝ですよ」 「う、えぇ……? う~ん……」  俺が空を見上げている、その横で、白柳さんが丸くなっている。相変わらず不機嫌そうに目をつむっていて、朝が弱いのがよくわかる。なんとなく、そんな彼の頭を撫でてみれば「やめろ」と言われて手を払われた。……いつもと、おんなじだ。 「……」  初めて、恋人とセックスをした。  恋人って、心が囚われるものだと思っていたけれど。不思議なことに、今の心のなかは晴れやかだ。空が美しく見える。誰かと心を結べば飛べなくなるとばかり思っていたのに……今までよりも空高く飛べそうだ。  変な気持ちになる。  なんとなく、ここから一歩踏み出すのが怖く思ってしまうけれど、それでも……こうして、朝起きて、大切な人がすぐ隣で寝ている光景を、ずっと昔から求めていたような、そんな気持ちになる。  白柳さんには手を払われてしまったが、めげずにもう一度撫でてみた。そうすると、白柳さんは恨めしげに目を開く。俺が「おはようございます」と言ってみれば、「……はようございます」と返してきた。 「う、……ううう~」  うなっている白柳さんの頭に口づけを落とす。  白柳さんのことは、止まり木のような人だと思っていたけれど。これからは、俺の帰る家になるのかな。そんなふうに思って。  

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