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ケーキ屋というのは、涼しくなると忙しくなるらしい。特に冬はクリスマスにバレンタインデーとスイーツの見せ場イベントがやってくる。そんな超忙しいイベントがしんどいのはもちろんだが、秋という季節もしんどいらしい。
さつまいも、栗、かぼちゃ、柿、イチジク!
秋の味覚はみんな好きだ。何故だろう。まあ俺も好きだけど。それらをふんだんに使ったスイーツは、とにかく美味しい。美味しいのでもちろん売れる。ケーキ屋は忙しい。クリスマスやバレンタインデーほどではないが、「やや忙しい」が長期間にわたって続く。そりゃしんどい。
そんなわけで、智駿さんは、秋のスイーツの主役である「さつまいも、栗、かぼちゃ、イチジク」を見ると拒絶反応を起こすらしい。
「おう、おまえは知ってるだろうけど、秋の智駿には触れないほうがいいぜ。秋の智駿は爆弾だから」
「それはわかってるんですけど……」
「じゃあ、放っておきゃあいいだろ。そのままお陀仏したら、それはそのときだ」
「お陀仏されたら困るから相談してるんじゃないですかー!」
俺は白柳さんのもとへ来ていた。俺が風邪を引きそうになったので、薬をもらいに。
最近の智駿さんは、元気がない。最近は俺の家に来ないし、電話をしてみても「ああ……梓乃くん……会いたいなあ……うぅ……」とゾンビのような声を発している。原因は秋のケーキ屋の忙しさなんだろうけれど、やはり心配だったので、何かできることはないかと白柳さんに相談してみたのだ。
「ま、精力を付けるのはメシからってな。栄養だよ栄養」
「なるほど……何かいい食べ物は?」
「そんなあなたにコレ! 『ミナギール』! 朝鮮人参と黒ニンニクを混ぜた最高級のサプリメントで……」
「ちょっ! いきなり宣伝してこないでくださいよ! なんですかそのクリニックによく置いてあるような謎の健康食品!」
「うるせーな、売れば私にマージンはいんだよ。買えよ」
「いやですよ!」
「チッ……。ビタミンでも摂ってろよ……」
「適当な……」
なんでこんなんセラは好きなん? と思ったが、まあ彼にしか見せない顔があるのかもしれない。とりあえず白柳さんは、智駿さんのことになればこの調子である。頼りにならない。
白柳さんは「金にならないやつはいらん」とでも言いたげに、さーっとカルテを書いて「はい、お大事に」と吐き捨てた。
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