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Marron glacé~甘くも憎い~

 とんとん、とご機嫌な音が聞こえる。紗千が玄関先で靴を履いて、つま先を叩いている音だ。  俺は久々に……久々といっても2ヶ月ぶりくらいだけれど、実家に帰ってきていた。季節は秋。どちらかといえば田舎な俺の実家は、季節の巡りがわかりやすい。秋になると木々が真っ赤に染まって、「秋でーす!」と主張してくる。  そんなこんなで実家に帰ってきていた俺は、玄関先で、出かける紗千の背中を見送っていた。   「いってきまーす」 「はい、いってら」 「……ふふー」 「何?」 「お兄ちゃんにお見送りされるの、久しぶりって思って」 「へいへい。早く行きなよ。遅れちゃうよ」 「あっ!」  紗千は友達と遊びに行くようだ。気になる男の子もメンバーにいるらしく、一段とおしゃれをしている。メイクをしているのも見て、最近の中学生って化粧するんだなあ……とどことなくジジ臭いことを考えてしまった。   「そういえば……花丘さんって嫌いな食べものとかある?」 「智駿さんの嫌いなもの……って花丘さん!? なんで苗字知ってるの?」 「こっそり調査に行きました!」 「何してんだよ……」 「それはいいとして! 嫌いな食べ物だよ! 今日の帰りに、お土産買ってこようと思って。『いつもお兄ちゃんがお世話になっています』の挨拶に」 「いらんことするな!」  あー……だめだ、完全に感づいている。そして、突っ走っている。中学生怖い……。  もう余計なことを言うほうが怪しく思われるだろうと、俺はその件に関しては黙っておいた。  はい、嫌いな食べ物、嫌いな食べ物ね……。もちろん知っていますよ、恋人ですから。 「――さつまいも、栗、かぼちゃ、イチジク! 秋の味覚全般!」

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