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第1話
「ただいま~」
「パパ、おかえりー!」
パタパタと足音が聞こえると同時に、小さなレンジャーが俺の胸に飛び込んできた。
最近流行っている戦隊者のパジャマを着た、今年4才になる息子だ。主人公好きのため、全身を真っ赤にした姿が、仕事で疲れた目に痛い。しかし、満面の笑みで帰宅を喜ぶ姿は愛らしくて、スーツが皺になるのも構わず思わず抱き締めた。
ひょいと片手で抱き上げて、リビングに入るとカレーの良い匂いが部屋に漂っていた。
「おかえり」
キッチンの方から声をかけられた。
それは柔らかく、俺を労る優しい声だったが、女よりも低い音域だった。
「カレーか。良い匂いすんな」
「カイのリクエストだよ」
「レイヤくんちね、昨日ね、カレーだったんだって!レイヤくんね、『ちゅうから』食べて、おとなになったの!だからね、カイトも『ちゅうから』食べておとなになったんだよ!」
「へ~、そうかそうか。大人になるなら、カレーの人参もしっかり食べたのか?」
「…食べたもん」
「んー?ホントかぁ?」
「食べた~ぁ!ハナちゃん、たっけて~」
甲斐人(かいと)の頭にグリグリと頭をくっつけると、嫌がりつつもキャッキャと笑う。その姿を見て、俺用のカレーライスを用意しながら英(はなふさ)も笑った。
「侑隼(ゆうと)。ちゃんとカイ、食べてたよ」
「お?マジで?えらいなー、カイ」
「カイト、大人だもん!」
「つーか、マジで中辛食わせたのか?」
「うん、『中辛』」
と言って、シンクの上にあるチョコレートと牛乳を見せられ、なるほどな、と納得した。
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