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番外編《お正月》①
「そういや、もう4年か。」
悠がポツリと呟いた。
「俺らが出会ってから。そんなに経ったんだなと思って。」
大晦日。スーパーで買ってきたエビ天を乗っけた蕎麦をズルズルすする。
テレビからはお笑い番組が流れているが、なんとなくつけていただけで、二人ともさして興味はなかった。
「あっという間だと思うのって、年取ったからなのかな」
「まあ、少なくとも遥は、出合った頃からしたら変わったかな。前はもっとこう…女王様みたいな感じだったから。」
女王様。なかなかひどい言われようだなぁ。
「女王様って…。じゃあ今はどうなんだよ?」
「今?うーん、丸くなったとは思うよ。投げやりな感じが無くなって、表情が豊かになった。
俺は、今のお前のほうが好きだよ。そうやってむくれてる顔も可愛いし、な」
「っっっ!」
コイツはいつもいつも、恥ずかしげもなくよくもそんなことを言えるな…。不意打ちを食らった僕は、ふくれっ面はそのままで、顔をみるみる赤くしている。
羞恥心を紛らわせようと、一心不乱に麺をすする。お笑い番組はもう終わって、テレビはカウントダウンまで何分かをカウントダウンするという、トンチンカンなことをやっていた。
「あーでも、遥が女王様のまんまだったら、俺、新しい扉開いてたかも知れない。女王様の足舐めたいわ、うん」
ゴフッッ
「もしも、の話だよ?俺そんな豚野郎じゃねーから。足よりこっち、舐めたい。」
そう言って、悠の長い足が、器用に僕の股関をつつく。
「ぁっ…。食事中、なのにっ、」
精一杯睨むと、悠の足は素直に離れて行った。
蕎麦をすっかり食べ終わって、暇していたようだ。子供みたいにいたずらをして気を引こうとする。どうしようもない駄々っ子だが、他の人にはこんな我儘言わないのだろうと思うと、無性に愛おしい。
蕎麦を食べ終わり、満腹感に腹をさすっていると、本当のカウントダウンが始まった。
10、9…
何かしなきゃ、と思いつつ何も思い付かず、助けを求めて彼を見ると、彼は僕に近づいて、唇を奪う。
下唇に噛みつき、上顎を舌で擽られる。勿体ぶるようにゆっくり、ゆっくりと口内をなぶられ、からだの奥に燻っていた官能を引きずり出される。
いつの間にか年は明けていて、友人や知人からの"あけおめ"メッセージで、携帯の通知が鳴り止まない。
「明けましておめでとう。」
彼はそう言って、僕のおでこに触れるだけのキスをして、いたずらっぽく笑った。
「今年もどうぞよろしくお願いします。俺のかわいいお嫁さん?」
冗談なのか本気なのかわからない言葉。どっちだっていい。今こうやって、好きあって、二人で一緒に過ごせるこの時が、幸せだから。
僕はうつむいて、こくんと頷いた。
上から、彼がふっと笑ったのが聴こえた。
「初詣行こっか。ほら、暖かくして」
やっぱり、自分は幸せ者だ。
僕はもう一度、こくんと頷いた。
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