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最終話 Cry no more.

 俺は若い頃の趣味で一眼レフのカメラを持っていた。あの日の旅行にも持参していた。カメラは傷だらけのまま、今も優子の遺影の前に置いてある。あの日以来使っていない。デジタルでもない、そもそもまともに動くのかどうかも怪しいそのカメラで、敦士と永と俺、3人で写真を撮った。  いろいろなことがありすぎたこの日、とりあえず一晩は様子を見ようと、そのまま自宅で過ごした。永も泊まり込みでいてくれた。夜泣きなどしたくもないのに、眠くなると理性が弱まって泣いてしまうのがどうにも厄介だったが、その度に永が世話をしてくれた。  翌朝。 「父さん! 父さん!!」激しく揺さぶられて、起こされた。「戻ってる! 戻ってるよ、57歳に!」  どうしてそうなったのか、今でも分からない、たった一日の奇跡。 「……永。」  俺は最愛の息子よりも先に、その名前を呼んだ。 「はい。」 「本当に、世話になった。それで……。」 「はい、気持ちは変わっていません。」  俺は永に頭を下げた。「敦士をよろしく頼みます。」 「こちらこそ、いろいろ教えてください。人生の先輩として。それと……赤ちゃんの気持ちも。」またあの茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる。  数日後、現像された写真を3人で見た。 「そっくりですね。」と永が言った。目を向けた先には、敦士が赤ん坊だった頃の写真。敦士がアルバムから見つけて、永に見せたいと剥がしてきた。  写真では、俺が敦士を抱っこして、隣で優子が茶目っ気たっぷりに笑っていた。そうだ、こんな風に笑う女性だった。悲しみが深すぎて、彼女の笑顔などずっと忘れていたけれど。そうか、赤ん坊騒動は、そんな俺に敦士の幸せに気付いてやれと、優子が仕掛けた悪戯だったのかもしれない。そう思ったら、「作戦、大成功」と笑っているようにも見えた。  その隣に、新しい家族写真を並べてみる。  赤ん坊の俺を抱く敦士と、茶目っ気たっぷりの笑顔の、敦士のパートナーが、そこにいた。  (完) ◇意気込み 書くことが好きで、書くにあたってスランプに陥ったことはありません。 体調やメンタルによらずにコンスタントな更新ができるよう心がけています。 自分の萌えと読者の萌えが重なることが何よりの喜びです。

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