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第9話
きたかと呟き統久は腰をあげるとカメラ越しにドアの外を確認して、鍵を開く。
「こんにちは。統久。毎回こんな汚い場所での逢瀬は味気ないよ」
中に入ってきた男は、高級そうなスーツに身を包み場違いな雰囲気を醸し出している。
どこかで見かけた顔だなと、シェンは眉を寄せて様子を伺う。
「辺境にお前が好むような立派な建物など望むなよ。遠野」
無理いうなと返答して、ソファに座れと視線をやる。
どこで見たかと言えば、銀河放送でよく顔をみかける経済界のプリンス遠野快陸 という男だと気づいて、シェンは興味深そうに様子をさぐる。
「お望みのモノは揃えたよ。お姫様。だからご褒美に預かりたいね」
遠野は綺麗に整えられた髪をかきあげて、統久の腰に腕を回して、トランクを手渡すと、彼を抱き寄せるようにソファーに腰を降ろす。
「彼は?」
ちらとシェンに視線をやってから、問いかけると統久はトランクを手にして鍵をあけながら、
「俺の部下で、シェン·リァウォーカー。今回の件の要だよ」
「また、物騒なことに足を突っ込んでないで、私の番になればいいのに」
「死んでもゴメンだよ」
嫁に行きたいと嘯いていたくせに、統久は吐き捨てるように告げて、トランクの中味を確認する。
「酷い人だろ。私は言い寄られても、振られることなどないのに」
巨万の富を持つ遠野財閥の御曹司を振るなどというオメガはいないだろう。
「お前のせいで、俺様は色々トラウマ抱える羽目になったってのに。番になどなりたくはないな」
ピシャリと再度断りながら、トランクの中身をシェンへと差し出す。
「シェン。奴らは、擬態コンツェルンを作っている。場所と会社の制服を流して貰った。着替えて潜入してくれ。偽造IDチップもこの中にある」
「今からですか。わかりましたが、中隊長はどうするんですか」
遠野がシェンの視線もはばからずに、統久のシャツを脱がしにかかってるのを、呆れた表情眺める。
「俺は.....、彼に報酬の支払いがあってね」
「情報を身体で買ってるって?仕事熱心過ぎないか」
半笑いを浮かべながら、シェンはIDチップを腕の端末に埋め込む。
「そうかもしれないが、はした金で動いてくれないんでね.....」
「ああ、部下君も混ざるかい?コンツェルンのある星への船は明日朝の出航だからね」
遠野は咎めるような統久の視線を面白がるように眺めて提案する。
遠野への報酬は、1日好きなようにしていいというものだったので、統久には拒否権がなかった。
断れとばかりに統久はシェンを見返したが、それがまずかったのか、シェンはにやりと笑いを浮かべる。
「船が出るまでやることないし、折角だから混ぜてもらおうかな。鹿狩中隊長さん」
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