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第26話
撤退は、しない。
.....が、なんだこれは。
入港して荷物の確認にサンプル渡したりとリミットまでの時間を削られて焦っているというのに、宇宙港を出てすぐに銃撃戦が繰り広げられる。
明らかに狙われている。
「こんなの、聞いてないですよ」
思わず支部長に回線を開いて文句をつけつつ、軌道を描く弾を避ける。
こんなのは、オレじゃなけりゃ避けられないだろう。ずだんずだんと響くレーザー銃の音は鳴り止まない。
警察はいないようだが、こんな派手な銃撃戦じゃ、地元の警備隊がやってくるのも時間の問題だろう。
この地域は、誰の担当だったかな。
潜入捜査とはいえ、面倒な手続きは勘弁だ。
『内部抗争のようだ。どちらの陣営も荷物を狙っているようだが、倉庫まできっちり届けろ』
「マジかよ」
支部長から返ってきた言葉に、シェンは通話を切ってから吐き捨てる。
仕方がないことだ。
あっちにとっては、ただの捨て駒だ。
そんなことは分かりきっている。
タイヤだけでも対レーザ加工しておいて良かった。
蛇行して海岸線のカーブを抜けていくのは非常につらい。
ドライビングテクニックも、ある意味超人技を超える。
ぎゅいんぎゅいんと音をたてながら、狙撃をかわしてなんとか倉庫へとたどりつく。
冗談じゃないぜ。
命がいくつあってもたりやしない。
身の回りを簡易スイーパーで吸いあげ髪などが落ちていないかを確認してから車を降りる。
手に嵌めたゴムの手袋も外してから、渡せと言われたトランクだけを手にして、入口付近へと歩みをすすめる。
どうする?
反撃するか?
背後から近づく気配にシェンは気づいて、逡巡すると後頭に銃をおしつけられる。
「の、ノイゼンダーク運送っすけど」
わざと震えた声を出すと、背後のガタイのいい男は歩けとばかりに背中を押す。
逃げ場はない、か。
「よく無事に届けてくれたね」
前からやってきたのは、恰幅のいいグラサンの男であり、シェンを見るとトランクを渡せと指先を向ける。
その視線の冷たさに、シェンはぞくりとしつつ、慎重にトランクを前に押し出す。
これは、オレを殺す気だ。
殺気を悟り、男が背後の男と視線を結んだ瞬間、シェンは身を屈めて銃口を逸らすと、背後の男の脚を払って、身を退けた。
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