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意外な一面(江藤目線)
「まったく……。朝っぱらから何を考えてるんだ。困ったヤツだな」
軽い目眩に襲われた江藤が額に手をやりながら食卓テーブルにつくと、ワイシャツとスラックスを身に着け、大急ぎで洗った顔を拭いながら宮本が走ってやって来た。
「すんません、お手伝いもできなくて」
「別にいい、お前のとろくささは想定内だからな。それよりも早く食べろよ、時間が間に合わなくなる」
「はーい! いただきますっ」
箸を持ってしっかりと拝んでから、ガツガツと貪る感じで実に美味そうに朝飯を食べる姿を、江藤は味噌汁をすすりながら、ちゃっかりと観察した。あまり噛まずに次々と飲み込んでいるのか、おかずに手を伸ばすのが早い。
呆気に取られてる間に完食した宮本の顔は、とても幸せそうに見えた。
「江藤さんが作ってくれたご飯、すっげぇ美味かったです。たくさん食べちゃった」
ニコニコしながら言われ思わず照れてしまい、それを隠すべく俯くしかなかった。
「……そうか、良かったな」
「隙あり! もーらいっと」
箸で摘もうとしていたウインナーを、宮本が素手で摘んで平然と奪う。
「あ……」
すかさず口に放り込む様子に、なす術がない状態の江藤。そんなぼんやりした恋人の姿を、重力に従うように顔の筋肉を緩めながら指を差した。
「何か朝イチの江藤さんって隙だらけですね、可愛い」
昨夜から連呼される可愛いの言葉に、ぎゅっと眉根を寄せる。これのどこが可愛いのやらと思いながら。
「ほらほら、早く食べないと間に合わなくなりますって」
「分かってる。ほっといてくれ!」
宮本ごときに指導されるとは、情けない――江藤はムッとしながらも慌てて朝飯をかき込み、キッチンに運び入れ手早く洗っていった。
そして寝室のクローゼットの前で今日のネクタイ選びをしていたら、自分のネクタイを縛り終えた宮本が、寝室前で暇そうにじーっと見つめてくる。
それに負けじとじーっと見つめ返し、気がついてしまった!
「佑輝くん、ちょっと来い」
「何ですかぁ?」
「お前のネクタイ、マジでダサすぎる」
(コイツのことだ。スーツに合わせてなんて考えず、適当に選んでいるんだろうな)
傍に来た宮本の襟元に似合いそうなネクタイを数本、てきぱき選んで合わせてみた。
「うん、これならマシに見える。それやるから遠慮なく付けていけ」
「え、いいんですか? こんな高そうなの」
「何だよ、俺様の手を煩わせた上に断るって言うのか!?」
すっげぇ似合ってるのに。
「いえいえ、遠慮なくもらいます! その代わり俺も江藤さんのネクタイ、ぜひとも選びたいんですけど」
「しょうがねぇな、早くしろよ」
なぁんて口では文句を言いつつも、実はかなり嬉しかった。宮本セレクトで1日過ごすことになる。自分のネクタイを、意味なく見つめてしまったりして――江藤の心の中は、自然と浮き足立っていた。
「えっとですね、うーんと……これだ!」
目の前に差し出されたネクタイで、ワクワクしていた江藤の心が一気に萎んでしまった。宮本が選んでくれたのはスーツの色にまったく似合わない、妙に浮きそうなものだったから。
無言でそれを手に取り、渋々つけてやる。
「わぁ、江藤さんすっげぇ似合ってる。いつもより可愛いかも」
そんな風に褒められても全然嬉しくないのに、胸の中が何かで満たされているのが現実で――
(こんな変なセンスのネクタイで1日過ごすのは、正直なところ憂鬱だが致し方ない、我慢するか……)
宮本の意外なセンスに辟易しつつも、どこか嬉しそうな面持ちの江藤がデレっとした恋人の顔を眺めていた。そんな視線を受けて、引き寄せられるように唇を重ねたことは必然だったのは言うまでもない。
朝から、小さな幸せを感じることが出来たふたりなのでした。
めでたし めでたし(・∀・)
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