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宮本が失踪なんてどういうことだよ!?
1日の仕事が終わり、自宅でまったりしている宮本に、大学時代の友人から電話が着た。社会人になってからも時間があえば一緒に飲みに出かけたりする相手だったので、口元を綻ばせながらスマホに出る。
「もしも〜し!」
『宮本、相変わらず元気そうな声だな。今、大丈夫?』
「大丈夫、石井久しぶりじゃね?」
『仕事がここのところ忙しかったしな。そっちこそ俺から電話しても、仕事が忙しくて遊べない発言していたけど、今は忙しくないんだな?』
友人石井のセリフで、仕事を理由に断っていた本当の理由を思い出し、空いた手で頭を掻いた。
(タイミング悪く、江藤さんとイチャイチャしていたり、デートしていたときだったんだよなぁ……)
「ちょうど決算期で、残業続きだったしさぁ。体と心がボロボロだよ」
『そんな宮本に朗報! 週末に合コン行かね?』
「合コン?」
『のんきなおまえのことだ、どうせ現在進行形で彼女いないだろ。今だってすぐに電話に飛びつくことができたのは、宮本に彼女がいない証拠だろうし』
「失礼な! 恋人くらいいるぞ!」
同性の恋人とは言えないところがつらいと思いながら豪語した宮本に、電話の向こう側でカラカラ笑う声がした。
『だったら今度逢わせてくれよ。逢えないんだったら、保存してる写真でもOK!』
「そっ、それは――」
『わかりやすい嘘をつくところ、昔と変わってないのな。バレバレなんだよ』
「本当に恋人がいるんだって。ちょっとした理由があって、石井に逢わせられないんだ」
『ちょっとした理由?』
「そう。見たら絶対に驚く系な感じ。おまえって、そういうヤツだったのか的な」
宮本なりにわかりやすい説明をしたのに、電話の向こう側は納得しなかったらしい。『おまえさぁ、相変わらずわけのわからないことばかり言って』などなど文句を言い出した。
「そんなこと言われても……」
『わかったわかった。宮本がブス専なのは理解した』
宮本の告げた言葉を思いっきり湾曲した石井は、暫しの間ゲラゲラ笑ってから話しかける。
『ブスな恋人のいる宮本に、是非とも行ってほしい場所があるんだけどさ』
「その表現、俺の恋人に対してすっごく失礼だぞ。それで、その場所はどこなんだ?」
スマホを耳に当てながら、近くに置いてあるメモ帳を引っ張り、スタンバイした。忘れっぽい宮本が常日頃から江藤に注意されていることのひとつが、メモを取ることだったので、実は部屋のあちこちにメモ帳が置かれているのである。
『地元に有名なパワースポットがあるんだよ』
「へー。そんなところがあるんだ、全然知らなかった」
忘れる前にと(パワースポット)と走り書きをする。
『三笠山の峠の入り口に駐車場があるんだけど、傍にある雑木林の中に湧き水が出るところがあって』
「うんうん、なるほど!」
(みかさ山入口ちゅうしゃ場のわき水)とわからない漢字をそのままに、必死にメモる。
『湧き水の場所まではきちんと看板が出ているから、ドジな宮本でも間違いなく辿り着けると思う』
「石井さぁ、もうちょっとオブラートに包んで、俺を表現してほしい」
そんな文句を言いつつも、メモにしっかり『ドジを直すべし』と書き記した。
『これでも包んでるつもりだって。それでその湧き水が出ているところの向かって左手に、人が歩いた道ができてるわけ』
「向かって左手に道ね、うんわかった」
きちんとメモをして、迷わないように施す。『湧き水向かって左』と書いて、左の文字を丸く囲った。
『道なりに進んで登って行くと、小さな祠があるんだって。確か恋愛成就とか、そっち系のありがたいものらしい』
「ありがたいってわけか、ふーん」
宮本はメモ帳にしっかりと視線を落とし(ありがた系の恋愛長寿)と大きな文字で書きこんだ。
『ドジな宮本が無事に祠に到着して、ブスな彼女と末永く仲良くできるように、ここからお祈りしておいてやるよ。頑張れよな』
宮本が文句を言う前に、石井はさっさと電話を切った。合コン要員にならない宮本と喋っているだけで、時間の無駄だと判断したんだろう。それでも宮本は嬉しかった。
(そんな願いを叶えることのできる祠を見つけて、江藤さんと末永く仲良くできたら、すっげぇラッキーじゃないか。三笠山まではチャリで行けない距離じゃないし、湧き水が出るところだって、そんなに山奥じゃないだろう。迷うことはない!)
善は急げと思い立った宮本は、メモした紙を手に自宅を飛び出し、チャリで三笠山に向かった。難なく祠まで到着したものの、帰り道を左に曲がったことにより、山の奥深くまで足を伸ばした結果、見事に迷ってしまったのは必然だったのである。
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