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宮本が失踪なんてどういうことだよ!?3
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江藤の自宅マンションに雅輝が到着を知らせるメールをくれたので、急いで手荷物を持って降りていくと、見覚えのある黒塗りのハイヤーが停車していた。
(今回のことで気弱になった雅輝が、恋人に泣きつかないわけがないだろ……)
やっぱりひとりで行けばよかったと後悔している江藤の前に、神妙な表情をした橋本が現れる。ちょっとだけ遅れて雅輝も顔を出したが、あからさまなしょんぼり具合が、逆に心配になった。
「江藤ちん、本当にごめん。佑輝のヤツが迷惑かけるなんて、本当になにをやってんだか」
「アイツのやらかすことは想定内だが、今回の行方不明は驚いた。これ、宮本の家にあったメモ」
ポケットにしまっていたのを手渡すと、それを読んだ雅輝が額に手を当てる。横で佇んでいた橋本も、それをひょいと覗き込んだ。
「江藤さんとの恋愛長寿をその祠でお願いするために、山に入ったんですね」
「佑輝のことだ、帰り道を右に曲がらなきゃならないのに、メモを見て左に進んだに違いない。そういうところに、普段のドジが出ちゃう弟なんだ……」
「さすがは宮本の兄貴! よくわかっていらっしゃる」
暗い雰囲気を払拭しようと、江藤はふざけてわざと拍手した。パチパチと乾いた音が辺りに響き渡るだけで、雰囲気はまったく明るくならない。
「江藤ちんはわかってるだろうけど、恋愛成就を聞き間違えて、恋愛長寿にしてるところもアイツらしい」
うんざりしながら雅輝が告げると、隣にいる橋本が目を瞬かせて問いかける。
「えっ? 聞き間違えたっていうのか?」
「そういうヤツだよね、佑輝は。江藤ちんの苦労がわかりすぎる」
「仕事でもそれを思う存分に出しているからな。苦労させられてます」
江藤が肩を竦めながら苦笑いをしたら、雅輝もつられるように笑った。微笑み合うふたりを見た橋本が、後部座席のドアを開ける。
「とりあえず雅輝の弟を早く山から捜しださなきゃ、江藤さんとの恋愛長寿が叶えられないだろう? 遠慮せずに乗ってくれ」
「橋本さん、ありがとうございます。助かります!」
手荷物を先に乗せてから、自身も後部座席に腰かけたら、静かにドアが閉められた。外ではふたりがなにか喋っていたが、眉根を寄せながら唇を真一文字に閉じた雅輝を見た橋本が、無言で恋人の頭を手荒に撫でる。
するといつもの表情に戻って助手席に乗り込んだ雅輝の様子に、江藤は心の底から安堵した。いい関係を築いているふたりを、とても羨ましく思ったのだった。
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