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レクチャーⅠ:どうして、そうなる!?

 短髪黒髪の頭頂部にみっともない寝癖をつけ、新入社員とは思えないようなくたびれたスーツを着た男が、教育係をしている先輩のデスクの前に情けない様相でたたずんでいた。 (――もう、帰りたい……)    いつも通り会社に出社し、朝礼を終えて5分しか時間がたっていないというのに、もう全力でバックギアが入ってる状態。デスク周りにいる社員からお気の毒にという憐れむ視線が、これでもかと新人の宮本に向かってビシバシ放たれていた。 「おまえ、3日前に同じミスしたよな。忘れたとは言わせないから」 「ああ、そうでしたっけ? どうにも、ものが覚え悪くって」  先輩である江藤 正晴(えとう まさはる)にガッツリ叱られている新人の宮本 佑輝(みやもと ゆうき)。大学を卒業し、全国展開している大手の不動産会社AOグループの傘下である青木不動産に就職した。    ここに入社してまだ3カ月――こうしてほぼ毎日、盛大にみんなの前で叱られているせいで、仕事のまったくできないダメ人間という烙印をしっかりと押されてしまった。 (数字関係が苦手なのに、どうして経理に配属されたのか。希望した職場は自分の中に眠るアイディアを生かせるであろう、営業企画部だったというのに)  ぼんやりとそんなことを考える宮本に、鋭い視線を投げかけた江藤。 「あのさ、わざわざ俺様が怒るような発言ばかりピックアップして、ワザと口に出してないか?」  眉間に深いシワを寄せ、額に青筋を立てながら宮本を叱るその姿は、まさしく鬼である。鬼以外の表現の仕方を知らない。  そんな鬼のような姿を躰を小さくして見つめると、そこはかとなく呆れたまなざしを江藤から返されてしまった。  自分のことを俺様と豪語できる人物は、この人くらいだろう。昔からいつも言っていた。以前はこんな怒りんぼじゃなくて、もっと穏やかに優しくほほ笑む人だったということを思い出しながら、宮本は頭を下げる。 「はぁ、すんません。これからは気をつけます」 「何をどう気をつけるんだ、おまえはっ!?」  目の前にいる江藤に叱らていることから現実逃避すべく、鮮やかな色彩で過去の出来事が脳内に流れていった。

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