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愛を取り戻せ②:お見合いをぶち壊したい6
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「江藤さん……」
誰もいなくなった部署に、時計の秒針の音だけが響いた。規則的なその音に反比例する宮本の心臓の音は、悔しいくらいにバクバク高鳴ってしまった。
どうして昼飯も食べずに、仕事を頑張っているのか。そこのところを訊ねて欲しかった。それなのに大好きな江藤はワケの分からないことを言った揚げ句に、お菓子を要求してきたりと意味不明なことばかりした。
それでもあらかじめ用意していたミルキーキスを、顔を綻ばせながら受け取ってくれたから、決心がそこで固まったんだ。見合い会場から、自らの手で連れ出してやろうと思ったのに――
『俺様が華麗に、見合いをする姿を拝ませてやる。18時55分、ここにやって来い。これは上司命令だ、残業は許さんからな!』
なぁんて偉そうに言い放たれた江藤の言葉で、宮本のやる気が一気に失せてしまった。
「火に油を注ぐどころか、これでもかと冷水を浴びせられた感じがしたじゃないか。何が上司命令だ。お見合いしてるところなんて、絶対に見たくはないのに……」
イライラが募り、どうしていいか分からなくなってくる。
「こんなに江藤さんが好きなのに。クソッ!」
両拳をデスクに、思いっきりたたきつけた。
ガンという音が響いたが一瞬で静寂に戻る。心の叫びと同じでまったく反応のない様子に、ほとほと嫌気がさした。
「もうあんなヤツ知らね! 今日は何が何でも残業してやる」
苛立ちまかせにパソコンの電源を切って、昼飯を食べるべく席を立ったのだった。
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