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過去の想い:愛をするということ10

「まさかと思うけど……。私が勧めたマグナム25(トゥエンティーフォー)も捨てたっていうのぉ!?」  男の声から一転させた甲高い声色に変えると、悲鳴に近い声で盛大に口走った忍ママ。そのせいで右端に座ってる客のふたりから、憐れむような視線をびしばし浴びせられる結果になってしまった。 (相談していたはずなのに、どうして爆弾発言されなきゃなんねぇんだ。どういうことだよ!?) 「江藤ちん、困った顔してごまかそうなんて、絶対に許さないんだからねっ!」 「ママ、それくらいにしてやれって。又聞きしてる俺らにも、その理由くらい分かるってもんだ」 「そうだよ。僕のマグナムを英二さんに突っ込んだりしちゃうから、その必要はないもんねぇ」 「バカッ! おまえ平然とした顔で、恥ずかしいこと言うな。ママと同類だぞ」  その言葉に口元をぴきぴきと引きつらせ、般若のような形相をしながら俺様の目の前から身を翻すと、端にいるふたりに向かって、お説教をはじめた。  巻き込まれてしまったことに憐れみを感じつつも、脳裏で昨日の夜の出来事を思い出してしまった。さっきのふたりのやり取りを見て、自分と宮本を重ねてしまったから――  玄関ではじまってしまった情事。もう止めてくれと言っているのに、しつこく舌と指を使って俺様の中を解し、散々感じさせてからやっと宮本の大きなモノを挿れられた。  片方の足を肩に乗せてゆっくりと腰を押し進めていたのに、何の前触れもなく一気に奥まで貫かれた衝撃で、躰をビクつかせてしまった。 「おまっ、力任せに突っ込んでくるなよ。デリケートゾーンなんだぞ!」 「デリケートゾーン……。確かにそうだった、ごめん。ズルッって挿いっちゃってさ」 「優しく扱えよ。壊れちまう」  そう忠告したのにもかかわらず肩にかけた俺様の足を抱きしめながら、これでもかとぐいぐい責め立ててきた。  グラグラするような安定しない姿勢で貫かれているので、何の前触れもなくイイトコロを擦りあげられると対処のしようがない。 「優しくしろって言ったそばから、何でこんなっ……激しく、ぅっ……やめっ、ぁあっ!」 「だーって江藤さん前回シたときに、俺の腰遣いが悪いって怒ってきたんですよ。もっと激しくしやがれって」  あーっ、前回の俺様最低! 酔った勢いとはいえ少しくらいは謙虚なところを見せないと、ただのエロ星人になるじゃないかよ。恥ずかしすぎて、どんな顔していいか分かんねぇ―― 「そのときにみっちり指導して頂いたので、記憶のある江藤さんをここぞとばかりに感じさせることができるんです。イキたいくせして俺よりも先にイカないように頑張ってるのを、この手で駄目にしてあげますよ」 「無謀なことはするな……」  したり顔をしながら、両手を空中でもみもみする宮本の顔を内心飽きれて見上げると、瞳を細めて見つめ返してきた。その笑みは、ぞーっと悪寒の走るものだった。 「テメェ変なコトしたら、ただじゃおかねぇからな」  玄関先で堂々と卑猥なことをしている時点で、告げた言葉の効力がないと分かっていたものの口走らずにはいられなかった。それだけ目の前の笑みが、アヤシイものだったんだ。 「赤い顔してそんなことを言われたら、つい頑張っちゃうでしょ」  頑張るなと言う前に発射寸前の自身を掴み上下にスライドさせながら、下半身からぐちゅぐちゅと音をたてて、中をかき乱すように前後に動かしてきた。 「ま、まて! ぁああっ!!」 「風呂場ではじめて江藤さんを抱いたときは、後ろからこれをしたんです。感じるたびに俺のを絞めつけてくるから、すげぇ気持ち良くて一緒にイったんですけどね」 「もっ、こんなのやめろ……うぁっ、あっ、あっ、やあっ!」 「大好きな江藤さんをこの手で感じさせて、イくところを間近で見たいから。たくさん感じて……」  大好きな江藤さん――もしかして大好きなコイツに抱かれているから、いつもより感じているのか。お世辞にはうまいと言えない微妙な動きだけど、躰全部で快感を受け止めて、同じように感じさせてやりたいって思ってしまう。 「ンっ、ゆ、佑輝くん……感じ、て。たくさんっ……ああっ、感じて」  前後する動きに合わせて腰をしならせたら、中にある宮本自身の質量がぐっと増した気がした。そのせいで感度が増す部分が増えたせいで、イキたくて堪らなくなる。 「ぁっ……好き、んっ、佑輝くんっ、いっしょに……うっ、はっ、はあ……ふあぁっ」 「江藤さん、俺も好きだから……すっげぇ好き」  気持ちいいだけじゃない。好きな相手と肌を重ねているから、躰中にこれでもかと幸せを感じることができる――  つながっているのが下半身だけじゃ物足りなくて、両腕を伸ばしてみた。すると抱きしめていた片足を手放して伸ばした両手を掴み寄せ、躰を引っ張り起こしてくれた。  そのまま自然と互いを強く抱きしめ合い、顔を寄せてキスをした。 「んっ、んぁっ、はあっ」  舌を絡めようとしたのに、下半身の動きと連動させるように出し入れする。それを逃がさないように、入ってきた瞬間を狙って思いっきり吸い付いた。 「うわっ、えろうさんっ!?」 「下手に動くと俺様のモノが、おまえの腹に当たって気持ちいいんだ。手加減しろってんだ」 「いや。イカせる」  舌を吸われたままだというのに、そんなのお構い無しに腰を上下させて、宣言通りに追い詰められてしまった。下からの激しい突き上げだけじゃ物足りなくて、気がついたら宮本の舌を解放して、自ら腰を動かしていた。 「あっ、あっ……イく、っあぁっ!」 「くうっっ――江藤さんのエロい声が響いてる」 「そんなの、んっ、抑えられねぇだろうよ。ふざけんな!」 「お蔭で、俺の声を隠せたので助かりました」  息を切らしながら宮本に縋りついた。汗ばんだ体温がえらく心地よくて、腕に力を入れてぎゅっとしてしまう。 「……そういやおまえ、イったのか?」  下腹部から下半身にかけて汚れてぐちゃぐちゃなのに投げかけた質問を無視して、抱きついてきた俺様の躰を抱きしめ返してきた。  乱れた息と気持ちをそのままに、しばらく無言で抱き合う。  ただ抱き合っているだけじゃなく下半身がつながったままなので、ムラムラした感じがあるのは確かだ。このまま二回戦に突入してもいいと思っている自分がいる。だけど―― 「好きだ……」  こうしてらしくない言葉を吐かせてしまうコイツの存在の大きさに、今更ながら気がついてしまった。  仕事が全然できないバカなヤツだというのに、俺様が動揺しているときに限って気を遣いまくってお菓子を寄越したり、世話を焼いたりして支えられていた。昔も今も変わらずに、影で支えてくれたんだな。  それなのに俺様は、何も返すことができていない。ただこうして気持ちを告げるだけしかできない、宮本以上にバカなヤツだ。 「えっ!? ちょっ江藤さん?」  自分の情けなさに涙したら、宮本がおろおろしながら両手を無意味にわたわたと動かした。どうやら目の前の状況に気が動転して、変な動作をしているんだろう。  感極まって涙したのに冷静な判断をする自分がおかしくて、ぷっと吹き出してしまった。 「泣いたと思ったら今度は笑い出すとか、どうしちゃったんだよ? エッチしてる最中から今まで、ずーっと翻弄されっぱなしなんだけど」 「バーロー、翻弄されてるのは俺様のほうだ」 「そんなことないって。頑張って我慢していたのに、ラストスパートの江藤さんの動きでまんまとイカされちゃったしさ」  そうか。あのとき一緒にイけたんだな。 「いいじゃないか。俺様は一緒にイキたかったからうれしいけどな」  涙を拭ってほほ笑んでみせたら、なぜか真っ青になってわなわなと唇を震わせた。 「ぇ、江藤さん、何か変なものでも食べた?」 「食ってねぇよ」 「だって、いつもよりすげぇ素直なんだもん。さっきも俺に向かって、好きだなんて言うしさ」  コイツときたらどうしてくれよう。人が折角心の内を明かしたというのに、思いっきり怯えやがって―― 「好きなヤツに好きって言って、何が悪いんだよ?」  言いながら宮本の両頬を、思う存分に抓ってやった。 「ひいぃっ、痛いぃいっ。どういうことだよ!?」  かくて違う二回戦が繰り広げられ、玄関で散々じゃれ合ったんだ。俺たちらしいと言えばそうなんだけどな―― 「江藤ちんってば思い出し笑いして。いやねぇ、いい男が台無しよ」  忍ママの声にはっと我に返ると、腰に手を当てて目の前に佇んでいた。 「いろいろ考えたんだけどさ。忍ママの助言通り、宮本と幸せになるぜって宣言しようかなって」 「ねぇねぇその宮本のブツってば、マグナムを捨てちゃうくらいいいモノなの?」  デカい顔をにゅっと近づけてくると、今度は声をひそめて訊ねてきた。 「そんなにいいモノでもねぇよ。普通だ」 「普通って、何を基準に普通って言ってるのよぉ。気になるじゃないの」 (――やっぱり、相談する相手を間違えたのかもしれねぇな)  そんな忍ママの追撃をうまいことかわして、逃げるように店を出た。古ビルの階段を下りながらシャツの胸ポケットからスマホを取り出して、アプリを起動する。ため息をひとつついてから踊り場で立ち止まり、雅輝宛にメッセージを打った。 『話がある。都合のいい日を教えてくれ』  察しのいいアイツならこの文面で、何を意味するか分かってしまうだろうなと思いつつ送信すると、すぐに既読がついた。返事がその場でくる気がしたので、傍にある壁に寄りかかり、ぼんやりとスマホの画面を眺める。  どんな気持ちでメッセージを読んだのか、雅輝の心情を慮った瞬間にタイミングよく返ってきた。 『現在地方に出張中で明後日に帰ってくる。実家にお土産渡す約束をしているから、近くにある公園で話をしよう。江藤ちんが仕事を終える時間に合わせる』  送られてきたものを読みながら、付き合っていたときのことを思い出してしまった。お互い離れがたくて雅輝の家を出てからよくその公園で、たわいない話を延々としたんだ。  誰にも見えないようにこっそりと手を握りしめて、ベンチに座っただけのこともあったし、別れ話をした場所でもある。 『明後日の午後7時にいつもの公園で。出張帰りの疲れたところなのに済まない』  手短にメッセージを返してから、階段を足早に下りた。  当日はどんな言葉で雅輝に報告するか――自分の気持ちをまとめながら、自宅へと帰ったのだった。

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