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第1話
改札口に立つ駅員さんに切符を渡し、中目黒駅を出ると、白いワイシャツに黒のスラックス姿のみっちゃんが立っているのが見えた。柳のような体躯で姿勢がよく、目元に穏やかな笑みが滲む彼は相変わらずで、私はひどく安心した。
駅前の往来のなか、紺色のワンピースをひらめかせ、みっちゃんの元に駆け寄る。彼はまなじりをさらに柔らかく細め、小さく会釈をしてくれた。烏の濡羽色のやや長い髪が重力に従い、顔の横にさらりと垂れる。その様がとても涼やかだった。
「みっちゃん、久しぶり」
私――秋吉妙子も、ぺこりと頭を下げる。
「お久しぶりです。お元気そうで良かった」
「ええ、毎日それなりにやっているわ」
みっちゃんはそよ風のように笑う。色で例えるとすれば淡く澄んだ水色の声は、私の鼓膜をさらりと撫で、とても心地が良かった。三ヶ月やそこらで変わるものなど、ほとんどないのだろう。私達は中目黒駅から徒歩五分の実家――佐伯家に向かって歩き始めた。
五月下旬の、風が少し強い晴天の日だった。
二ヶ月ほど前までは空を覆うほどに咲き誇っていた桜並木は、今は濃淡がある緑の葉を木枝に茂らせ、風が吹くたびにざわざわと耳触りの良い音をさせていた。
「これ、秋吉家から。お線香と、楽陽堂のカステラ」
左手に提げた洋菓子屋の紙袋を見せるように持ち上げれば、みっちゃんは恐縮しきった表情で微笑み、小さくかぶりを振った。
「気を遣ってくださらなくていいのに」
「私もそう言ったんだけど、せめてこれくらいはって言われてしまうと、拒むに拒めなくて」
「あぁ」
みっちゃんの整った眉目が申し訳なさげに垂れる。「元はと言えば、こちらが法要へのご出席を固辞したからですもんね」
「まぁ、ね」
「……実は、薄々そうなるのではと思って、こちらもお土産を用意しています」
私は目を見開く。「そうなの?」
「あぁ、いや、そうでなくとも、妙子さんにはお土産を持って帰って頂くつもりでした……真栄屋の豆大福を買ってます」
「そんな、気を遣ってもらわなくても」
「ふふ、お互い様ですね」
秋吉家の嫁として咄嗟に出た私の言葉に、みっちゃんは依然、眉と目尻を下げながらも穏やかに笑った。「なのでお互いに、有り難く受け取ることにしましょう。ね?」
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