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第2話

みっちゃんは佐伯家のお手伝いさんであり、父の愛人でもあった。 日本が敗戦した翌年――昭和二十一年の秋、新宿駅近くの闇市で身を(ひさ)いでいたみっちゃんを父が自宅に連れてきて、今に至る。 自分より拳ひとつと半分ほど上背があるみっちゃんを、じっと見つめる。視線に気づいた彼は、照れ臭そうに私を見た。 「どうされました? 僕の顔に何か?」 「いや、何だか懐かしいなと思って」 「懐かしい?」 「ええ。私が小さい頃、ふたりで手を繋いで買い物に行ってたなぁとか、色々思い出して」 「そうでしたね」 みっちゃんも当時を想起してか、懐かしげに笑みを漏らす。「妙子さんは近所で人気者でした」 「みっちゃんは今でも、商店街のおば様方から人気でしょ?」 「そんなことありませんよ」 みっちゃんは苦笑まじりに否定したが、きっとそうだ。加えて近所の奥様方も、みっちゃんにはうっとりとした視線を向けているのを知っている。

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