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第26話

 夢の中で、アオはずっと花の匂いに包まれていた。ふと夜中に目が覚めると、アオは一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。明かりが落とされたホテルの一室で、アオはシオンの腕の中にいた。  どうしてーー・・・・・・。  思わず叫びそうな心を、アオはぎゅっと押し止めた。  なぜシオンはまだここにいるのだろう。自分なんか放っておいたって構わないのに。  アオがいつも密かに見とれてしまう瞳は、いまは長い睫毛に伏せられている。ほんの少しでも身動きをしたら、シオンが起きてしまいそうで怖かった。  震える手をそっと伸ばし、シオンに触れる寸前で、止めた。アオはぎゅっとこぶしを握りしめた。  そのとき、アオは後孔のあたりに、ぬるりと何かが濡れているような感覚を覚えた。それが夕べ散々注がれたシオンの精液だと思い当たり、アオはわずかに頬を紅潮させた。シオンを起こさないよう、そっと後ろに手を滑らせる。意外なことに、アオの後孔はさらりと乾いていた。不思議に思って、指を一本差し入れてみるが、しっとりと湿ったような感触に触れるだけで、シオンの精液らしきものは残ってはいない。まるで身体の内側に吸収されてしまったようだ。  何気なく考えたことに、アオは頭をガツンと殴られたようなショックを覚えた。  まさか・・・・・・。  そういえば、いつもシオンと一緒にいるときに嗅いでいたあの花の匂いが、いつの間にか消えていることに気がつく。夕べは噎せるほどの強烈な匂いがしていたというのに。  アオは叫び出しそうになるのを、必死にこぶしで押さえた。震える身体でベッドから降りると、音をたてないよう素早く身支度を整えた。そしてシオンをひとり部屋に残し、ホテルを後にした。

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