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ピロートーク
半分眠った状態で鉄平は、いつもより枕が硬いなぁと思って手でむにむに触っていると「くすぐったい」と、声がしてハッと目が覚めた。
志狼の逞しい胸板を枕にして眠っていたようだ。
びっくりして起き上がろうとしたが、腰の痛みに突っ伏した。
「……ぅ」
「まだ寝てろ。今日は動けねぇだろ」
「だっ……誰のせいだよっ!」
「俺、だな」
志狼がニヤリと笑った。すけべ面なのに男の色気があり、かっこよく見えた。
鉄平は真っ赤になってしまう。
志狼はにやにやしながら、その顔が可愛いと思った。
「そういや、お前。なんであんな場所でレイプされそうになってたんだ?」
そのせいで、デビューしたての男娼なのかと勘違いしてしまった。
「……昨日、バイトから帰ったら家族が夜逃げしてて……」
聞けば、鉄平の家は貧乏子だくさんの9人兄弟で、借金もあったらしい。
父がヤバい闇金に手を出し、家族は慌ただしく夜逃げした。9人兄弟の真ん中の息子である鉄平は、バイトに出ていて置いてけぼりにされたという。
居合わせた闇金業者から逃げて、暗い裏道に迷いこんだところを駅まで送ってやるからと、酔っ払い二人に襲われた。
そこを志狼に助けられたのだ。
……まぁ結局、志狼にペロっと喰われてしまったのだから、助かったわけでもないが。
「闇金業者の名前分かるか? 俺が話をつけてやる」
「えっ……あんた、やっぱりヤクザなの?」
「志狼だ。誰がヤクザだ。刑事だよ」
「ええええッ!? 見えない!」
鉄平は目をまん丸に見開いて叫ぶ。
───くそぅ。可愛いすぎか。
「てゆうか、刑事がレイプなんかして……」
「気持ちよかっただろうが」
「あ、ぅ。でも、こんなの……」
ますます顔を真っ赤にして、おろおろと口ごもる鉄平を逞しい腕で抱きしめた。
「闇金業者からは俺が守ってやる。お前、行くとこあるのか?」
「……ない」
「うちに来い。拾ってやる」
男臭い笑みが魅力的だった。
志狼のオリエントブルーの瞳が鉄平を捕らえる。
「でも……」
「黙って俺に飼われてろ、タマ」
ちゅっと可愛らしい音を立ててキスをして、鉄平を胸に抱いた。
鉄平は内心複雑だったが、太く逞しい腕に抱かれ、守られているような安心感に包まれていた。
助けてはくれたが、強引にエッチされてしまったし……鉄平は頭の中でぐるぐると「でもでもだって」を繰り返していたが、志狼の胸に頭を預けていると、力強い鼓動を感じて眠くなってきた。
今だけなら、ちょっとだけなら……
そう自分に言い訳をしつつ、鉄平は志狼に身を委ねて目を閉じた。
一カ月後。
馴染みのバーで竜蛇に「可愛い猫を飼い始めた」と志狼は惚気ることになる。
end
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