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第29話 束の間の休息
毎朝の事はまた銀ちゃんに聞くとして、他に気になっていた事があった。
「ねえ浅葱…、浅葱や織部さんは、銀ちゃんの事、銀様って呼んでるけど、銀ちゃんて偉い人なの?」
浅葱は目を丸くして俺を見た後に、ふっと細めて優しく笑う。
「そっか…。銀様は、凛には何も話してないんだね。家の事情に凛を巻き込みたくないからか、凛には関係ないと思ってるからか…。まあ、俺は前者だと思うけど。銀様はね、全ての天狗の頂点にいる方の息子なんだよ。謂わば、王子様だね。いずれ、俺ら天狗一族を取りまとめ引っ張っていってくれる方なんだ…」
「え…」
ーー俺が呑気に『ちゃん』付けで呼んでる銀ちゃんが…?『王子様』と言われてもぴんとこない…。
「…だから、様を付けて呼んでるんだ…。家の事情って、何か揉めてるの…?あ、ごめんっ。話せなかったらいい…」
「いいよ。俺は、凛も知ってた方がいいと思う。いつか、銀様の力になってもらいたいから。銀様の父上には弟がいてね、その弟が自分の息子を次の王にと推してるんだ。年も銀様と数ヶ月しか変わらないし。それに銀様の翼って銀色だろ?俺ら天狗の翼は、皆、黒い。中でも、その息子、鉄(くろがね)様の翼は濃い漆黒色だ。その事を強く言ってくるんだよね…。実際、翼の色なんかより本人の実力が大事なんだけどね。実力なら銀様はダントツだよ!顔良し、頭良し、そしてもの凄く強い!銀様以上の人…天狗は現れないよ〜、凛。ちゃんと捕まえとかないとっ」
「うん……えっ!な、何言ってんの?もう…。でも、銀ちゃん、花嫁の筈の俺が男だった事で、気まずくなってるんじゃ…」
俯いて小さく呟く俺の頭を、浅葱がぽんぽんと撫でた。
「大丈夫。凛は気にすることないよ。ただ、いざという時は、銀様の力になってあげてね。」
「もちろんだよっ。俺、銀ちゃんの為なら何でもするよっ」
「ぷっ、それ、銀様に聞かせてぇ〜。超テンション上がるわ。…凛はいい子だな。俺、凛が大好きだよ」
浅葱が満面の笑みを浮かべて言ってる事が、また、よくわからなかったけど、好きと言われたのが嬉しくて、俺は照れ臭いのを隠すように笑った。
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