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第31話 来訪者

大学が夏休みに入るとすぐに、銀ちゃんは天狗の郷の中にあるという家に帰って行った。 銀ちゃんが帰った数日後に、俺も夏休みに入った。いっぱい清忠と遊ぼうと思っていたのに、清忠も実家に帰ってしまった。 「凛ちゃんごめん…。俺も両親に帰って来いって言われてるから…。でも、すぐ戻って来るから!」 「ふふ、折角だからゆっくりしておいでよ。俺は大丈夫だから」 俺に手を合わせる清忠を、笑って見送った。 俺も両親や兄ちゃんの所に行こうかと思ったけど、そんなお金もないし、1人でどうしようかと思っていた。 そうしたら3日おきに浅葱が会いに来てくれるようになった。時々泊まってもくれて、俺の寂しい気持ちが少しは紛れた気がした。 ーー寂しい…。そう、俺は銀ちゃんが帰ってしまった日から、ずっと寂しいんだ。ずっと銀ちゃんの事を考えてる。少し離れただけでこんな風に思ってしまうなんて、俺…銀ちゃんのこと……。もし、契約を解いたらもう一緒には居れなくなるのかな…、そんなの嫌だな…。 今日は浅葱も来なくて、ぼんやりとそんな事を考えていたら、インターフォンの鳴る音に驚いて、びくっと身体が跳ねてしまった。 そんな自分に苦笑しながら玄関へ向かう。浅葱が来たんだろうか…と、返事をして玄関の扉を開けた。 「はーい、ひっ…」 そこにはいつかと同じように、眼鏡の奥の冷たい目を俺に向ける織部さんが立っていた。 「あ…、こんにちは…。ど、どうしたんですか?」 「失礼します。今日は、浅葱が来れない代わりに私が来ました。それと、あなたに会いたいという方を連れて来てます」 「俺に…?」 織部さんは丁寧にお辞儀をしてから、後ろを振り返り「鉄様」と呼んだ。 ーー鉄って、確か…。 織部さんの視線の先に目を向けると、藍色の着物を着た、漆黒の髪にどこか銀ちゃんに似た顔立ちの、綺麗な男の人が立っていた。 彼は俺に近付いて、にこりと笑って手を差し出してきた。 「初めまして。君が凛くん?僕は一ノ瀬 鉄(いちのせ くろがね)と言います。しろの従兄弟だよ」 「さ、椹木 凛です。銀ちゃんの…」 「花嫁だよね?」 鉄さんが興味深げに、俺の顔を覗き込む。 「や、あの、それは間違いで…。今、契約を解く方法を調べてもらってます…。すいません…」 「ふふ、なんで謝るの。凛くん、可愛いね。もっと、君と話してみたいな。ねえ、お邪魔させてもらってもいい?」 「あっ、すいませんっ。狭い所ですけど、どうぞっ」 暑い玄関先で待たせてしまったのが申し訳なくて、俺は慌てて居間へ案内をした。

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