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第32話 来訪者
エアコンの効いた居間で、座卓を挟んで俺と鉄さんが座り、織部さんは少し離れた所で控える。
冷たいほうじ茶と、買い置きしてあった葛饅頭を座卓に並べて勧めた。
「どうぞ…。あの、俺に会いたいって…」
「ありがとう、頂きます。ふふ、浅葱がね、君の事、可愛くていい子だってすごく褒めるから会ってみたくなったんだ。それに、しろが花嫁にしたい程の子って、どんな子か気になってね…。想像してた通り、とっても可愛いね」
彼の言葉に、俺は小さく溜息を吐く。
「いやいや、鉄さんの方が綺麗じゃないですか…。それに花嫁って、さっきも言いましたけど、昔に俺を女だと間違えて契約しちゃったんです。その事で、銀ちゃんや、もしかして郷の皆さんに迷惑をかけてたら、ごめんなさい…」
「そう…。しろは迷惑とは思ってないと思うよ、僕もね。あ、あとね、しろがここに戻って来るの、もう少し伸びるみたいだよ。でも、こんなに長い間、離れてるのは寂しいでしょ?だからね凛くん、郷に来ない?僕が連れて行ってあげるよ」
「えっ!」
鉄さんの申し出に、思わず大きな声を出してしまった。
ーー銀ちゃんの郷に…?行っていいのかな…。もうすぐ帰って来ると思ってたのに、まだ帰って来ないなら…、俺…銀ちゃんに会いに行きたい。早く会いたい。それに銀ちゃんの生まれた所も見てみたい…。
俺は、恐る恐る鉄さんに尋ねる。
「俺、銀ちゃんに会いたい…です。でも、俺が郷に行ってもいいの?迷惑じゃ…」
「いいよ。僕が招待するから大丈夫。僕は郷でも偉い方だから、誰にも文句は言わせないよ。なあ、織部。凛くんが来ても、何も問題ないよな?」
「はい。仮にも、銀様の婚約者ですし、鉄様のお客様として来られるわけですから」
織部さんが、相変わらず感情の読めない表情で、淡々と答えた。
「ね?旅行にでも行く気分でおいでよ」
「…わかりました。じゃあお言葉に甘えて。よろしくお願いします」
俺の返事を聞いた鉄さんが、満面の笑みで大きく頷いた。
「よし!じゃあ行こうか。早く準備しておいで」
「えっ?今からっ?ちょっ、心の準備が…」
「そんなの、飛んでる間にしたらいいから。早く」
鉄さんは俺を立たせると、背中を押して居間から追い出した。
鉄さんの有無を言わさない雰囲気に、俺は仕方なく準備をする為に2階へと駆け上がった。
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