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第33話 来訪者

下から鉄さんの「泊まりの用意だよ」と言う声がして、俺は一応、2泊分の着替えを大きめのリュックに詰め込んだ。 荷物の準備が出来ると、戸締りをして家を出た。 昔に、銀ちゃんと待ち合わせ場所にしていた神社に行く。この場所は、天狗の郷に繋がる入り口の1つになっているそうだ。 「じゃあ、行こうか」 鉄さんがそう言うと、ばさりと大きな音と共に、漆黒色の翼が現れた。 夏の太陽の眩しい光を浴びて、まるで黒曜石のように輝いている。 「ああ…不吉な色だよね。人間にとって黒は禍々しいもんね…」 翼を見つめて動かない俺に気付いて、目を伏せて鉄さんが呟く。俺は否定を示すように顔を横に振って、慌てて答えた。 「えっ、いや、そんな事ないですっ。すごく綺麗だな、と思って。それに黒って、どんな色にも染まらなくて、かっこいいと思う…。俺の好きな色の1つです」 鉄さんが、驚いたように顔を上げて俺を見た。そして、とても嬉しそうに笑った。 「そっか…。ありがとう、凛くん。しろが、君を花嫁にしたい理由がわかる気がするよ…。さあ行くよ、おいで…」 「う…、はい…」 鉄さんが伸ばした手に俺の手を乗せる。身体を引き寄せられて、しっかりと抱き上げられた。 ーーはあ…、飛ぶってやっぱりこうなるよね…。我が儘だけど俺、銀ちゃんと飛びたかったな…。銀ちゃん…早く会いたい…。 俺は、そんな風に考えてしまったのが申し訳なくて、出来るだけ、負担が少なくなるように身体を小さくする。 天狗はすごい力持ちで、俺の事を抱えるのなんて簡単な事なんだろうけど、一応「重くてすいません」と謝っておいた。まあ俺は、高校生男子の平均体重よりは軽い方なんだけどね…。 鉄さんは「凛くん軽すぎ」と笑うと、空高く飛び上がった。

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