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第49話 微睡み
暗闇の中をふわふわと漂っていると、何かの花のような甘い香りが鼻腔をかすめる。
何の香りか確かめたくて、身体を動かそうとするのだけど、とても怠くて指をぴくりとしか動かせない。目を開けたくても、瞼がぴくぴくと震えるだけだった。
「まだ、起きたら駄目だ。ゆっくりおやすみ」
近くからとても優しい声が聞こえる。
もしかして、ここは天国なのかな…。
それにしては、身体中がずきずきと痛い。
甘い香りに誘われるように意識が薄れ、また深い眠りについた。
どれくらい眠ったのか、誰かに呼ばれた気がして、ゆっくりと瞼を上げる。
ぼやける俺の目の前に、とても綺麗な人がいた。
「少しだけすまない。これを飲んで」
女の人かと思ったけど、透き通った少し低めの声を聞いて、男の人だと気付いた。
彼が俺の頭を持ち上げて、吸い飲みで水を飲ませてくれる。喉を通る冷たさが心地いい。水は、微かに甘い味がして美味しかった。
水を飲み終わると、そっと頭を戻して「もう少し、おやすみ」と囁く。
俺はその声に素直に従い、再び目を閉じた。
「外がうるさい。ふふ、天狗達が騒いでいるようだな。何かを捜しにここまで来たのか…。さて、見つかるのやら…」
夢の中で、あの綺麗な人が何か言ってる。天狗…捜す…?俺を捜してるの?銀ちゃん……。
銀ちゃんを思って俺の目の奥が熱くなり、涙が顔の横に流れ落ちた気がした。
次に目を覚ました時には、周りが明るくなっていた。どうやら俺は、和室に敷いてある布団に寝かされているようだった。
身体を起こそうと力を入れるけど、全身が鈍い痛みに覆われていて、小さく呻き声を上げた。
「うっ、いた…っ、はぁ…力が入らない…。ここどこ…」
声にも力が入らなくて、掠れた声しか出せない。起き上がるのは諦めて、首をゆっくりと動かし部屋を見回した。
その時、足音が近付いて襖が静かに開いた。現れたのは、夢の中で見たと思っていたあの綺麗な人だった。
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