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第50話 微睡み
白いシャツに黒のズボン姿のその人は、俺が目を覚ました事に気付いて、優しく微笑みながら傍に来た。
「良かった。少しは回復したかな。結構長く眠っていたから…」
綺麗だけど近くでよく見ると、やっぱり男の人だ。
「あ、の…、俺はどうなって…。助けて…くれたんです、よね…」
聞きたい事がいっぱいあるのに、声が出しづらい。
「ああ、無理に喋らなくていい。今はまだゆっくり休みなさい。ふふ、俺が散歩してたら、崖の上が騒がしいから見上げていたんだ。そうしたら突然、君が降って来たから驚いた。大丈夫、君の身体が地面にぶつかる前に俺が受け止めたから。でも、落ちる途中にどこかに当たったみたいで酷い怪我をしている。だから、まだしばらくは安静にしてないと駄目だよ」
「そう…ですか…。ありがとう、ございます…」
頷いて微笑む彼を見て気付いた。彼もまた、人間ではなく妖だ。
銀ちゃんや清忠の近くで過ごすようになって、俺は人間と妖の区別がつくようになっていた。
「少しだけ起こすよ。これを飲んでくれる?」
彼がそう言って、俺の背中に腕を回して起こしてくれる。
「あっ、い、た…っ」
身体中のあちこちがずきずきと痛くて、思わず声を漏らした。
「すまない、痛いね…。骨とかは大丈夫みたいだが、結構切り傷や打撲してる所があって、治るのにもう少し日にちがかかると思う。はい、これは薬になるから飲んで」
透明な飲み物が入ったコップを渡される。一口飲むと、寝てる間に時々飲まされていた、あの微かに甘い水だった。
喉が渇いていた俺は、一息に全部飲み干した。
「これ、美味しいと思わない?甘露水と言ってね、傷や病気に効くんだ。栄養にもなる。それとこの軟膏、傷の治りが早くなるよ。塗り直すから、もう少し我慢して起きてて」
「はい…」
彼の言葉に頷くと、俺の着ている浴衣の襟に手をかけて広げ、ぱさりと下に落として俺の肩を露わにした。
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