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第72話 穴があったら入りたい

「ねぇ銀ちゃん…、この胸の印にキスされた時、身体がすごく熱くなったんだけど…」 銀ちゃんの胸に付いてる花びらの印に、指で触れて尋ねる。 「ふっ、これは強力な呪力だと前にも言っただろ?契約をした相手と身体を繋げると、より快感を感じるようになってる。だが、契約した相手以外と繋がった場合は、この印にかなりの激痛が走るらしい。だから、おまえは浮気出来ない」 銀ちゃんは、満足気に笑って俺の印に口付けた。 「あ…ぅ、銀ちゃんも?浮気出来ない?」 俺の胸から顔を起こし、頭を抱き寄せて髪の毛を優しく梳く銀ちゃんを、俺は首を傾げて見上げた。 「悪いな…契約を施した天狗は痛みを感じる事はない。だがそんなものがなくても、俺は浮気などしない。おまえほど愛しい存在はいないからな。凛、俺の言葉が信じられないか?」 「信じるけど…俺だけ痛いなんてずるい…。だって銀ちゃんかっこいいんだもん。わかった…もっといっぱい印を付ければいいんだっ」 俺は銀ちゃんの胸に顔を寄せて、印の周りを順番にちゅうと強く吸っていった。 しばらく吸うと、口が疲れてきたので顔を離す。銀ちゃんの胸には、まるで何かの病気か?というくらい沢山の赤い痕が付いた。満足して微笑む俺の顎を、銀ちゃんが掴んで上げさせ、俺の唇にしっとりと唇を押し付ける。 「凛…おまえが安心するなら、幾らでも俺の体におまえの印を付けろ…」 そう言って、何度も俺の唇を食む。俺は唇に触れる柔らかい感触にうっとりとしかけて、もう一つ気になる事があったのを思い出した。 心隠さんが来て、一悶着があって、俺にかけられていた術が解けて、心隠さんが帰って行って…。 そして、そのまま夢中になって銀ちゃんとや、やっちゃったんだけど…。 まだ夕方って事は、真っ昼間からや…やってたってことで…。 俺は少し顔を離して、銀ちゃんをそっと窺う。 「銀ちゃん…俺ら明るいうちからその…え、えっち…しちゃってたけど、だ、誰も来なかったよね…?大丈夫だよね?」 銀ちゃんは、思い出すように少し上を向いて、ふいに「ああ」と声を上げた。 「えっ、なにっ…」 俺を見ると、ふっと笑って恐ろしい事を言った。 「そういえば清忠と浅葱が来てたな。あの鬼の野郎が出て行ってすぐに、この家の周りに結界を張っておいたから入れなかったみたいだがな」 「ええっ!あ、あの……結界って、音も漏れないんだよね…?」 「ん?ああ、普通は漏れない。だが、人間には聞こえなくても、妖は意識を集中させれば中の声を聞くことができる…。ああそれでか。清忠が慌てて離れて行ったのも、浅葱が気持ち悪い笑いを浮かべて去って行ったのも、おまえの声を聞いたんだな…。くそっ、あいつら…俺の凛の可愛い声を聞きやがって。次からはもっと強力な結界を張ろう…、ん?どうした?」 俺は気になっていた事が的中した恥ずかしさに、両手で顔を覆ってぷるぷると全身を震わせた。 ーーうわぁ…、よりによってあの2人に聞かれたのっ?どんな羞恥プレイだよ…。次にあいつらに会ったら、恥ずかしさで軽く死ねる……。 「俺…そんなに声大きかった?」 目に涙を溜め、赤くなってるであろう顔を上げて聞いた。 「んん?普通だと思うぞ。なんだ、気になるのか?」 「お、俺…次からは声出さないようにする!」 「それは駄目だっ。俺が許さん!…そんなに恥ずかしいのか?わかった、次からはどんな音も聞こえないくらいの強力な結界を張ってやる。だから、そんな顔をするな…」 口をへの字に曲げた半泣きの情けない顔を、切れ長の目で覗き込まれて俺は渋々頷いた。

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