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第85話 忍び寄る影
真白さんの背中に揺られて、木々が密集する中をしばらく行くと、突然開けた場所に出た。そこには別荘地でよく見かけるペンションのような洒落た木の家が建っていた。
彼は、俺を玄関横のウッドデッキに降ろして座らせる。
「ちょっと待っててね。薬を取ってくるから」
その言葉に俺が頷くのを見て、彼は家の中へ入って行った。
俺は、ウッドデッキから家の外観や庭を眺める。
ーー妖の家って和風なのが多いと思ってたけど、こんな小洒落た所にも住んでるんだ。
庭の一角にピンクのコスモスが揺れていて、その可憐な姿にしばらく見惚れていた。
「お待たせ。はい、じゃあ足見せて」
「あ、はい…」
真白さんが、いろんな物が入った木の箱を持って戻って来た。俺の足を触って患部を確かめる。
彼が足首を軽く押した瞬間、激痛が走って思わず足が跳ねた。
「痛っ!あっ、う…」
「ここかぁ。うん…骨は大丈夫そうだよ。でも酷い捻挫をしてるね。これを塗っておくと早く治るから…。ちょっと冷たいけど我慢してね」
そう言うと、俺の足首にセメントみたいな物をペタペタと塗っていく。始めは冷たさに驚いて、足がぴくんと動いてしまった。でも徐々にその冷たさが、熱を持ってじんじんと疼く足首に心地良くて、俺は真白さんが器用に塗っていくのをじっと見ていた。
塗り終えると、分厚いガーゼを当てて包帯を巻いていく。
「はい、終わり。どう?もう痛みが少しマシになってきてない?」
「…ほんとだ。さっきに比べたら、全然痛くない」
「そうでしょ?良かった。あと少し休んだら送って行くよ」
「ほんとにありがとうございました。助かりました」
「君、本当に可愛くていい子だね。ね、君に匂いを付けた天狗って、君の……」
「懐かしい匂いがすると思って出て来てみたら…、おまえだったのか…」
突然、背後から聞こえてきたその声に、俺の身体に戦慄が走った。
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