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第114話 これからの話

翌朝、トイレに行きたくなって目が覚めた。銀ちゃんの腕の中から身体を起こそうとした俺は、悲鳴をあげて倒れ込む。ほんとに泣き出すまで責め続けられた俺の腰と足は、ぷるぷると震えて重く、まったく力が入らなかった。 「…ん、おはよう凛。どうした?」 俺の悲鳴で目を覚ました銀ちゃんが、俺の額に口付ける。 「う…、銀ちゃん…。俺、トイレ行きたいんだけど…動けない…」 「ああ…、ふっ、悪かったな。おまえが可愛くて止めてやれなかった。ほら俺が連れて行ってやるから」 「うん…」 俺は、銀ちゃんに抱き抱えられてトイレに連れて行ってもらい、また布団に戻った。 今日は天狗の郷に泊まる予定で、昼から出る事になっていた。 なので、昼まで銀ちゃんと布団の中でごろごろとして過ごした。ぴったりと寄り添って、他愛のない話をしてまた微睡んで、俺はこういう時間がすごく好きだ。 銀ちゃんに腰を撫でてもらい、昼までゆっくりと休んだおかげで、出かける頃には何とか起き上がって歩けるようになっていた。 着替えて昼ご飯を食べてから家を出た。 天狗の郷では、浅葱が笑顔で待ち構えていた。 今日は、銀ちゃんも着物ではなく、黒のセーターを着ている。Vネックから覗く鎖骨がとても色っぽくて、どきどきする。浅葱も正月でもやっぱり着物は嫌みたいで、グレーのTシャツに黒のカーディガンを羽織り、チノパンを履いていた。 俺は白のセーターを着た。銀ちゃんに「白が似合う」と言われてから、俺は敢えて白を選ぶ事が多くなった。だって、銀ちゃんには可愛く見られたいから…。 銀ちゃんの部屋に荷物を置いて、夏に銀ちゃんのお父さんと会った時の部屋に通された。 部屋には前よりも大きな机が置いてあり、何人かがすでに席に着いている。 まず、銀ちゃんのお父さんの縹(はなだ)さんと、お母さんの紫(ゆかり)さんに挨拶をする。次に紹介されたのは、銀ちゃんの事をあまり良く思ってないという、縹さんの弟だった。内心では俺の事もどう思ってるのかわからないけど、どことなく鉄さんに似た笑顔で挨拶をされる。俺も出来るだけ笑顔を作り、挨拶を返した。 他にも5人いて、この郷を縹さん達と共に取り仕切る、上層部の方々らしい。 俺の自己紹介をしてひと通り挨拶が終わると、俺と銀ちゃん、浅葱も席に着いて、机に並べられている料理を摘みながら、それぞれに談笑を始めた。

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