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第214話 マーキング

一旦家に戻ってシャワーを浴び、下着を履いて長袖Tシャツとズボンに着替えた。 俺が着させられていた女物の浴衣は、銀ちゃんがゴミ袋に入れていた。 家に戻る間、銀ちゃんは特に何も言ってこなかったけど、どこか悲しそうな目をしていた。たぶん、俺の事をすごく心配したのだろうし、僧正さんから話を聞いて、俺が黙っていた事を知ったのかもしれない。 そこは、素直に謝ろうと思った。 たとえ大した事ないだろうと思っても、銀ちゃんには全て話すべきだった。そうしたら、銀ちゃんがもっと俺の周りを警戒して、今回の事は防げたかもしれない。 俺は監禁されていたショックと、僧正さんの話を軽く考えていた自分に自己嫌悪に陥り、口数少なく落ち込んでいた。 でも、今はそれどころではない。 何度も「休まなくていいのか?」と心配する銀ちゃんを説き伏せて、清忠の家に行く為に、銀ちゃんと家を出た。 蔵翔さんは、俺と銀ちゃんを守るように、家まで後を付いて来た。無事に俺達が家に着くと、さっきの水の檻がある湖まで戻って尊央を待つと言った。 「おまえがいない事に気付いたら、尊央はまた連れ去りに来ようとするだろう。だから、俺が捕まえて説得しておく」 「…聞いてくれるでしょうか?」 「あいつは俺の言う事なら聞くはずだ。だが、おまえにはやけに執着してるようだしな。素直に納得するかどうか怪しいが…。しばらくは、尊央に知られていない場所に隠れている方がいいかもしれない」 銀ちゃんが、俺の肩を強く抱き寄せて冷たく言い放つ。 「そいつに、凛はおまえの物ではないと言っておいてくれ。生まれた時から凛が誰かの物だと決まってるなんて、そんな馬鹿な話があるか。凛は、俺と出会って互いに好きになって、必要不可欠な存在になったんだ。凛の相手は俺だ。それをよく説明してくれ」 「ああ。俺は理解してるのだが、尊央は頑固なところがあるからな…。説得に骨が折れるだろうな」 銀ちゃんの言葉に、蔵翔さんが眉間にしわを寄せて溜め息を吐いた。 「いざとなれば、俺が直接対決する。だが、出来ればややり合いたくはない。おまえ達一族にとっても、争いは避けたいだろうが。じゃあ、頼んだぞ」 蔵翔さんは頷いて、元来た方角へ飛んで行った。 蔵翔さんが去った後、家に入って準備をした。そしてすぐに、銀ちゃんに抱き抱えられて清忠の家へと飛んだ。 銀ちゃんの、俺を離すまいと抱きしめる力強い腕に、愛しい気持ちと共に胸が痛む。 やっぱりちゃんと話してれば良かった。これからは、どんな些細な事でも包み隠さず話すから、俺に呆れないで…俺を離さないで…。 そう願って、銀ちゃんの胸に顔を擦り寄せる。 それに応えるように、銀ちゃんは益々強く抱きしめてくれた。

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