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第213話 水の檻

ぐるりと回転しながら上昇していく。俺は目が回って酔いそうになり固く瞼を閉じた。 一呼吸置いた後に、派手な水音と共に瞼の裏が明るくなった。どうやら水中から抜け出たようだ。 すぐに俺の身体に回されていた腕が緩み、くらとさんの手から誰かに渡される。俺を受け止めた力強い腕の感触に、瞬時にそれが誰かを悟った。 俺は大きく目を見開いて、俺を抱きしめる人物にしがみ付いた。俺を抱く腕にも力がこもる。 「ぎ、銀ちゃん…っ、来てくれたっ。怖かったよ…ぅ、うっ…」 「もう大丈夫だ。遅くなって悪かった。怖い思いをさせて悪かったな…」 ぐずぐずと泣き始めた俺の背中を、銀ちゃんが何度も撫でる。 俺は泣きじゃくりながらも、一番気になっていた事を尋ねた。 「銀ちゃんっ、清は…っ?清はどうなったのっ?」 銀ちゃんの服を握りしめて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げた。 そんな俺の顔を、銀ちゃんの大きな手が拭ってくれる。 「清忠は無事だ。おまえが連れ去られてすぐに俺は学校に着いたんだが、その時にはかなり危ない状態だった。清忠の傍にいた倉橋という奴と共に、神使の元へ連れて行った。神使は気付いていたのか、神社の前で待っていて、すぐに治してくれたよ。ただ、かなり危ない状態だったからか、傷は治ったんだがまだ目を覚まさない。今は、清忠の兄と倉橋が看ている」 「そんなっ…。し、死んだりしない…?」 「傷も治って呼吸も安定している。ただ、目を覚まさないだけだ…」 「清は…清は…っ、俺の為に…傷だらけになって、戦ってくれたんだ…」 「そのようだな。あいつはやっぱり頼れる奴だ。目が覚めたら褒めてやるか」 「うん、お願い…」 俺の頰を愛おしそうに撫でる銀ちゃんに、ふにゃりと笑って見せる。 その時、黙って俺達を見ていたくらとさんが、辺りを警戒しながら言った。 「とりあえず、早くここを離れるぞ。いつ、尊央が戻って来るかわからない。その子も着替えさせてやらないといけない」 その言葉に、俺は女物の浴衣を一枚だけしか羽織ってない事に今更気付く。途端に恥ずかしくなってきて、益々銀ちゃんに身体を密着させた。 「銀ちゃん…あんまし見ないで…」 「それ…凛に似合ってるが、そいつが選んだというのが腹が立つ。しかもおまえ…それ一枚だけか…。そいつ、尊央と言ったか…、見つけたらただじゃ済まさん…」 銀ちゃんが物騒な事を言い出したけど、それよりも早く帰って着替えたい。浴衣の下に何も身につけて無いのが、とても心許無くて嫌だ。 俺は銀ちゃんの胸に顔を擦り寄せて、「早く連れて帰って…」と懇願した。

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