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第217話 マーキング

銀ちゃんが俺を安心させるように、力強く言う。 「凛、大丈夫だ。もう二度と、おまえに手出しはさせない。おまえを渡さない。俺の大切な宝物であるおまえを渡せるものか」 「…うん。俺を離さないで。尊…先生は、俺の事を自分の物だと言ってたけど、そんなの知らない。俺は、銀ちゃんの物だから。銀ちゃんしかいらない。銀ちゃんじゃなきゃ嫌だよ…」 言いながら、俺は涙を流していた。 銀ちゃんが俺の背中に手を回して、強く抱きしめてくれる。 ーーああ…、俺が幸せを感じるのはこの腕の中だけだ。どうか、誰も俺達の邪魔をしないで。 静かに泣き続ける俺の背中を撫でて、銀ちゃんが言った。 「実は、凛を連れ出すのに協力してくれた、あのクソ野郎の双子の兄が言ってたんだが…。あいつらの何代か前の先祖に、とても愛した人間の女がいたらしい。その女が病気になって死ぬ間際に、また生まれ変わったら会えるようにと呪術を施したそうだ。それが凛の、この甘い香りの事だと言うんだ。まあ、その先祖が死んだ後は、誰もそんな話は本気にしてなくて忘れ去られていたらしいが…。なぜか、そのクソ弟だけがその話に興味を持ってしまった。そいつは必死になって、甘い香りの人間を捜したそうだ。が、凛には、子供の頃に契約をした俺の匂いが付いていたから、見つけるのが難しかったのだろう。しかし、一月前に凛を見つけてしまった。でも、凛が男だったから諦めようとした。兄の方もそんな事で好きな相手を決めるなと諭したらしいが…。そいつは、せっかく会えた凛をすっぱりと諦めきれなくて様子を見てたらしい。そこで…本気だとしたらムカつく話だが…、凛を好きになったと言ったらしい」 銀ちゃんが忌々しげに顔を歪ませて、俺を抱きしめる腕に力を込める。 「兄は『その人間に想う相手がいるならそっとしておけ』と忠告したらしいが、弟は聞かなかった。そして、清忠を半殺しにして凛を連れ去った。兄は弟を説得してみると言っていたが、俺の本心は、例え相手が納得して謝ってきたとしても許せない。まあ、乱暴な事は凛が嫌がるからしないつもりだが…。それで、そいつが説得に応じないでまた凛を奪いに来るかもしれないからどこかに隠れた方がいいと言ってたのだが…。どこか、良い場所はないか?」 その問いに、即座に倉橋が答えた。 「じゃあ、俺ん家の神社に来ませんか?龍といえども、家には神使がいるし、迂闊には入って来れないやろうと思います。しかし、なんとも自分勝手な話ですね」 「ええっ、そんなの倉橋に迷惑かけてしまう…」 「椹木、俺ら友達やろ?友達なら助けるのが当たり前やん。そんな風に遠慮される方が寂しいわ。いっその事、真葛も俺ん家に来いよ。なんか、合宿みたいで楽しいやん?」 「ああ、それがいいな。もしそいつが来たら、おまえの陰陽師の術で滅してくれても構わん。神使にも、龍の髭を引き抜くぐらいはやってもらおうか。清忠、おまえのことも心配だから一緒に来い」

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