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第240話 天狗の花嫁

翌日は、朝から鉄さんの家を訪ねた。 「式の前日なのにいいの?」 鉄さんの家に向かう途中で、俺は心配になり銀ちゃんに聞く。 「式の準備は全て終わって暇にしてるからいいだろう。それに凛が郷に来た事を伝えたら、『会いたい』と言ってたぞ」 明日は直接話せるかわからないし、今会えるなら、ちゃんと顔を見ておめでとうを言いたいと思い、俺は頷いた。そして、銀ちゃんと繋いだ手を強く握り直した。 道中、銀ちゃんはたくさん声をかけられていた。なかでも女の人が特に多く声をかけてきたように思う。その時に、俺にも笑顔を向けてくれる人もいれば、明らかに敵対心を持って睨んでくる人もいた。 でも、銀ちゃんはずっと俺の手を離さないで、「俺の花嫁だ」と紹介してくれた。俺は、相手がどんな反応をしようとも、銀ちゃんの印象が悪くならないように笑顔を心がけた。でも、無理に笑顔を作らなくても、銀ちゃんがとても甘い目で俺を見てくるから、俺は自然と笑顔になっていた。 鉄さんの家に着いて、座敷に上げてもらう。出されたお茶菓子を頂いて待っていると、若竹のような色の着物を着た鉄さんが入って来た。 ちなみに銀ちゃんは、シンプルな白のTシャツに黒の細身のズボンを履いている。俺は、銀ちゃんとお揃いの白のTシャツにカーキ色のチノパンを履いている。 綺麗な着物を着た鉄さんもかっこいいけど、今日の銀ちゃんは、どんな雑誌のモデルよりもかっこいい。 隣に座る銀ちゃんをうっとりと見てると、「元気だったか?」と尋ねる鉄さんの声が聞こえた。 「うん、元気だよ。鉄さん、この度はおめでとうございます。幸せになってね。奥さんを幸せにしてあげてね」 「おまえに言われなくてもわかってるさ。どうだ、最近は何事も起こってないか?」 「うん、大丈夫。この前の事ではお世話になりました。皆んなに助けてもらって…。ありがとう」 「あの時は無事で良かった。あいつは、僕が真っ二つにしてやろうと思ったんだが、くれぐれも殺すなと、しろに言われてたからな。殴り飛ばすだけにしておいた」 「え?殴ったの?銀ちゃんが髭を抜いたって言うし、先生、ボロボロだったの?」 銀ちゃんを見上げて尋ねる。 「ボロボロだったな。それでもゆるい方だ。凛を連れ去り、清忠を殺しかけたのだからな。凛、そいつの事はもう思い出すな。くろも凛の前では、龍の話を出すな」 「そうだね、悪かったよ。それよりも、今日の昼は一緒にどうかな?妹の茜と妹の友達の翠(みどり)もいるが…」 「どうする、凛?」 「せっかく誘ってくれたんだし、食べて行こうよ。いいの?鉄さん…」 「口うるさいあいつらに囲まれて食べるのは嫌だったんだ。助かるよ」 「ああ、確かにうるさいな。凛、食べたらすぐに帰ろう」 「銀ちゃん、知ってる人?」 俺の頰に手を当てて、銀ちゃんが苦笑いをする。 「小さい頃に、くろと遊んでいたら茜と翠が寄って来てな。よく邪魔をされたな」 「そうだな。でもしろは、凛と出会ってからは、ちっとも僕と遊ばなくなったじゃないか」 鉄さんの言葉を聞いて、俺は懐かしさで胸が熱くなった。

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