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「あッ……! まっ、まって……それ、だめッ、……ひ、ぁあっ!」 「なに? 僕が聞きたいのは『だめ』じゃない。どうしたの? まさかイッたりとかしないよね?」 「ひっ、あっ、あっ、だめ、だめ、ほんと、むり、止め、やだ、」  ゾクゾクと下腹部に熱が集まってくる。身体を捩り、シーツを引っ掻き、逃げようとしてもヴィクトールがそれを許してくれるはずがない。次第に早くなっていく手の動きにヘンゼルは身体を震わせて限界を迎えようとしていた。頭が、真っ白。ヤバイ、イク、むりむり、イク……! ――酷いこと、される 「きもち、いい、です……気持ちいい、から……! やめてください、酷いことは、しないでください……!」  ああ、なんてことを……なんてことを言ってしまったんだ。羞恥心と敗北感で、ヘンゼルの全身からがくりと力が抜ける。項垂れるヘンゼルの耳元にヴィクトールが唇を寄せる。 「気持ちいい……? へぇ、気持ちいいんだ? 男にこんなことをされてヘンゼルくん、気持ちいいんだねぇ……君変態だね」 「……っ」 「ヘンゼルくん……君、素質あるよ」 「そし……つ?」  彼の指す『素質』がなんのことかわからないわけがない。「男に抱かれる素質」だ。「気持ちいい」というのは言わされた、ということもあるが紛れもない事実だ。熱くて堪らないこの身体がなによりの証拠。 「……なに? 泣いてるの?」  目の前が真っ暗になった。自分も、おなじだ。身売りをしている人達と、おなじ。あんなに、嫌だったのに。 「泣かないでよ。言ったでしょう? 抱かれることはなにも悪いことなんかじゃないって」 「あ、あぁっ……」 「いい子……ちゃんと言えたんだからね、ヘンゼルくん……とびっきり気持ちよくしてあげる」 「んっ、ふ、ぁあ……ッ」  嫌だったのに…… 「んンッ……!?」  根元をぎゅっと掴まれ、思わずヘンゼルの腰がびくんと跳ねる。耳元で、吐息混じりのヴィクトールの笑い声が聞こえて、ヘンゼルは逃げるように首を捻る。 「かわいいね。もっといい声で鳴いてね」 「あ、……ん、ぅ」  ヴィクトールがヘンゼルのものの先から溢れる液体を指に絡め取る。そしてその指でそっと後孔の入り口を撫でた。 「……っ、待っ、それは……!」 「いや? 本当にそうかな? 今よりずっとずっと気持ちいいよ? ゆっくりやってあげるから、痛くない」 「やだ、嫌だってば……」 「嘘つかないでよ。僕が入り口撫でてあげるとこ~んなに欲しそうにひくひくさせて。想像してごらん? ここの、ナカ……奥の方ぐりぐりされるの。いっぱいふと~いものに突かれるの。熱くて、熱くて、中からじわじわ気持ち良くなって、頭が真っ白になって……それでもナカ掻き回されて……はは、またここピクピクいった。どう? 想像して感じた?」 「……は、ぁっ……」  あつい。触られたところがじんじんしてきて、なかがぴくぴくしているのが自分でもわかる。なに、これ。身体が、おかしい。 「気持ちいいでしょ? ここ、撫でられるの。ねぇ?」 「……きもち、いい」 「いい子……奥のほうもいっぱい弄ってあげる」 「あっ……あぁあ……」  つぷ。  小さな音をたてて、指がなかに入れられる。ぎゅうぎゅうにしまったそこを押し進められると、少し圧迫感を覚えた。 「ああ、はいっちゃったね、ヘンゼルくん」 「……ん、」 「わかる? ここ、こうやっていれることができるんだよ? それにね、ここ」 「あっ……!?」 「ここ、男の子が一番気持ちいいところ」  ヴィクトールが、指の腹で「それ」を擦りあげた。その瞬間、なかがぎゅうっとしまる。 「待っ……そ、それ……だめっ、変……」 「変じゃないよ、それでいいんだ。気持ちいいでしょう?」 「あっ……あぁあっ……むり、ほんと……あッ、はぁあ……」 「気持ちよさそうだね。なかもトロトロだ……僕にいっぱい身体触られて、ずっとここひくひくしてたんだねェ……嬉しいでしょう? 今からここいっぱいいじめてあげるからね」 「あぁ……!」  熱さが渦のようになって、下腹部から這い上がってくる。身をよじり、息を吐いて、なんとか正気を保とうとするも、余計におかしくなってしまいそうだ。これが快楽だ、ということくらいヘンゼルにも理解できた。しかし、排泄器を弄られてイきそうになっている自分が酷く浅ましく思えて、また、涙がでてくる。 「また、泣いてるの?」 「ふっ、あ、ぁあ……」 「泣きながら甘い声あげちゃって……愛おしいね、ヘンゼルくん……もっとどろどろにしてあげる。ヘンゼルくん……ほら、もっと感じて、悪いことじゃないよ、男の子がこうされて気持ち良くなるの……全然悪いことじゃないから」 「……ぁんッ……」 「ほら、ここ。ここ、男の子にしかないんだよ、知ってる、前立腺? こうして奥のほう……ペニスを挿れるとちょうどあたる部分にこんな器官があるの。面白いでしょう? まるで、男の子がここにペニスを挿れられて感じることができるように体がつくられたみたい。ヘンゼルくん……だから、ね? 素直に感じて。いいんだよ、ここでイくの、変なことじゃないよ」 「……っ」  ヴィクトールがヘンゼルの耳元で、甘く囁く。彼の体に覆われて優しく唇で耳朶を甘噛みされると、なんだか全てが赦されたような心地がした。 「あ……あぁ……」  くち、くち、と卑猥な音がヘンゼルの耳を犯す。これが自分の排泄器からでている音だなんて信じられない。こんなに、そこを弄られて感じているなんて、信じたくない。  ごりごりと一番感じるところを擦られて、絶頂までいってしまいそうになる。しかし、根元を握られているから出すこともかなわない。 「むり、むり、あっ、あぁあッ……はなして、もう、もう……」 「なに? イっちゃいそう?」 「イく……イく、から……! はなし、て……」 「ふぅん? そんなにお尻の穴触られるの気持ちいい? イっちゃうくらい? あはは、そりゃあ……」 「あっ――あぁあッ……!」  ぐちゅぐちゅと激しい音が響き始める。めちゃくちゃな出し入れに、ヘンゼルの頭の中が真っ白になった。 「メスになっちゃったねェ、ヘンゼルくん! ここでイケるなんて! ほら、言ってごらん、気持ちいいって」 「あっ、あっ、きもち、いい……きもちいい、です……ひ、ぁやあッ!」 「もっと可愛くおねだりしてごらん? イカせてくださいって……もっと激しくしてくださいって」 「んぁ……っ、イカせて……はァッ……や、あぁっ、ん……もっと、して、はげ、しく……」  もう、自分が何を言っているのかわからなかった。この苦しさから解放されたくて、ヴィクトールの言葉にただただ従った。どんなに自分が卑猥なことを言っているのかも、わからないままにヘンゼルは叫んだ。 「イク、イっちゃう、から、アッ、ぁあっ、はなして、おねがいします、ゆるして、だめ、だめ……」  激しくなる一方の水音も、擦れるシーツの音も、自分の声さえも聞こえない。ヘンゼルは襲いくる快楽に完全に支配されてしまっていた。 「ふっ……ん、ァアッ!」 「おっと……今イッたね? ぎゅうってしまった。わかる? 出さないで、ヘンゼルくんイっちゃったんだよ?」 「は、……ぁ、ああ……」 「……あと、何回イケるかな?」 「……! や、だ……許して、ください……もう、だめ、ぁ、あぁ……!」  ヘンゼルが絶頂に達しても、ヴィクトールは手を休めようとしない。ヴィクトールに根元を掴まれて出すことができなかったヘンゼルは、熱を吐き出すことができなかったため、再び与えられた刺激に酔い始めてしまう。 「や、や……あ、ぁあ……」 「可愛いね、ヘンゼルくん……ここ? 気持ちいい?」 「……はい……あっ、ぁ……」 「ふふ、そう。じゃあもっといっぱい触ってあげる」 「あ……あ……あ……」  ゆるゆるとしつこくソコを刺激し続ける。何度も何度も達して、それでもヴィクトールはソコを虐めることをやめようとしない。  やがて、ヘンゼルは意識を朦朧させ始め、動かなくなってしまった。とろんとしたその表情に、ヴィクトールはほくそ笑む。そして、びくびくと細かい痙攣を繰り返すその身体を、そっと抱きしめた。 「綺麗だよ、僕の腕の中で堕ちてゆく、君。ヘンゼルくん……愛おしいね」 「……」 「あれ? 寝ちゃった? はは、どこまでも可愛いなァ」  ヘンゼルはとうとう意識を手放してしまった。ヴィクトールはそんなヘンゼルに優しいキスを落とす。 「おやすみ、ヘンゼルくん」  夢に堕ちても尚、ヘンゼルの身体の震えは止まらない。悪戯心でイイところを擦りあげてみればビクンと腰が跳ねる。もっと限界までやってやろうとヴィクトールの嗜虐心が震えたが、そこはぐっと我慢した。 ――明日も、調教するから。 「明日も僕と一緒だよ、ヘンゼルくん」  くたりとしたヘンゼルを、ヴィクトールはぎゅっと抱きしめる。部屋の電気を消すと、そのまま布団を被って、ヴィクトールも目を閉じた。

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