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*** 「ん……」  目を覚ますと、体中がだるくてヘンゼルは顔をしかめた。布団の中で、ヴィクトールに抱きしめられている。一瞬忘れていたが、すぐに昨夜のことを思い出す。 「……」  このまま、オンナみたいな身体にされてしまうのだろうか。いや、オンナなんてものじゃなくて、もっと、卑しい……。男に挿れられて、感じて。 「ヘンゼルくん?」 「あ……起きて、」 「どうしたの? 悲しそうな顔をして」 「……」  「一度抱いたくらいで彼女ヅラかよ」そんなことを言っていた友人の言葉を思い出す。その時は女は理性を感情でおさえられない馬鹿な生き物だと思ったが、そうではないのだと、ヘンゼルは今気付く。 ――ヴィクトールに触れられることが、嫌だと感じない。  シャツに手を差し入れられて、背中を撫で回される。耳に舌をねじ込まれ、音をたてられる。 「ちょっ……あっ、」 ――嫌じゃない。  昨日、あんなに男に体を触られることが気持ち悪くて仕方がなかったのに。一度抱かれてしまったことで、距離が無理矢理詰められてしまった。嫌じゃないと思っている自分が嫌なだけで、ヴィクトールの手がどんなにいやらしく身体に触れてこようが、それ自体に嫌悪感は生まれてこない。 「昨日の自分がどんなにいやらしいこと言ったか、覚えている?」 「……言わせたんだろ、俺の意思じゃない」 「ふっ……あは、強情だなぁ、可愛い」 「あっ……」  堕ちてゆく。  ヴィクトールが覆いかぶさって、全身にキスを落としてきた。もどかしい刺激に身体が震える。仰け反って、ただ声をあげることしかできない自分が、恨めしい。  違う……、ただ、抵抗すれば酷いことをされるからされるがままになっているだけ……気持ちいいなんて、思っていない。 「ヘンゼルくん……気付いてる? 君、今すごくいやらしい顔してるよ」 「……っ、」 「僕にこんなことされて、気持ちいいんだね……可愛い。僕だけのものにしたいよ、ヘンゼルくん。ねぇ、ヘンゼルくん……名前、呼んで?」 「え……?」 「僕の、名前。まだ一度も呼んでくれていないじゃん?」  優しく、肩甲骨のあたりを撫でられる。そこを触られると頭がぼんやりする。  ヘンゼルは湧き出る快楽にそのまま身を落としていった。じっとその紅い瞳に見つめられると、くらくらする。抵抗する気が、失せてしまう。 「……ヴィクトール」 「……もう一回」 「……ッ、ヴィクトール!」 「あはは、ありがと」  名前を呼んだ瞬間、ヴィクトールは嬉しそうに笑った。それがなんだか歯痒くて、恥ずかしくて、顔をそらそうとすればヴィクトールはそんなヘンゼルの顔を掴んで、唇を塞いだ。 「んっ……」  ヘンゼルの唇の感触を味わうかのように、ヴィクトールは何度も角度を変えて触れるだけの口づけをする。やがてゆっくりと手のひらを重ね、指を絡め。あまりにも優しいキスに、心を溶かされてしまいそうで。あぶない、唐突にヘンゼルはそんなことを考えた。 「……ヴィクトール……!」  慌てて、彼の名を呼ぶ。 「ん? どうしたの?」 「や、やめろ……朝から……!」 「夜ならいいの?」 「ふざけんなそういう意味じゃねぇ!」 「ふ、あはは……そうだね、そんなに時間あるわけでもないし……」  クスクスとヴィクトールは可笑しそうに笑う。まるで、自分の心を見透かされているようで、ヘンゼルは怖くなった。彼に呑まれそうになって、それで彼の名前を呼んだこと。あのまま流されてキスをしていたら、どうなっていたのか…… 「じゃあ、ヘンゼルくん。シャワーを浴びておいで。そのあと、連れて行くところがある」 「……連れて行くところ?」 「お楽しみだよ。痛いことも、怖いこともしないから……大丈夫、安心して」 「……信用ならねぇな」 「嘘はつかないってば~。君は大切なドールなんだよ? 壊れたりでもしたら困る。大事に大事に扱わないと、ね?」 「……」  へらへらと笑うヴィクトールの心がよめない。何れにせよ、逆らうことなど出来ないのだ。ヘンゼルは諦めて、ヴィクトールからタオルと着替えを受け取ると、浴室に向かった。

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