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「は、ぁあっ……」
勝手にこぼれてくる甘い声。これは本当に自分のものなのだろうか。もうどうでもいい。全身がふわふわとして気持ちいい。水音に頭の中を満たされて、わけがわからなくなってくる。
「ん、ん……」
「……」
とろりとした眼差しで自分を見つめてくるヘンゼルに、ヴィクトールの理性もそろそろ限界になっていた。予想外に目に悪い。くらりと眩暈を覚える。こんな声を、自分を見つめてあげているのかと思うと、きゅ、と心臓が苦しくなった。
「……!」
そのとき、ヘンゼルがヴィクトールの背に手を回してくる。これにはさすがにヴィクトールも驚いてしまう。
(いくら気持ちよくてぐずぐずだからって……タチ悪い……)
ヴィクトールの胸のなかで、何かが弾けそうになった。
ジリ、と何かが焦げるような臭いを錯覚する。その感覚は、ヴィクトールを苛立たせた。わけのわからない感情に、焦燥を覚えた。
「アッ……!?」
「あんまり……僕を惑わせないでくれるかな」
ヴィクトールはヘンゼルの下着の中に手を突っ込むと、バイブの取っ手を掴む。そして、ソレを傾けて、バイブをヘンゼルのイイところに思い切り押し当ててやる。
「あっ、だ、だめっ……ん! ア、あぁッ!」
「ほら、そうじゃないでしょ、ヘンゼルくん。キスして、僕に」
「は、ッ……ん、……」
ヘンゼルは一瞬仰け反ったが、ヴィクトールの言葉に従おうと、なんとか体制を立て戻そうとする。かたかたと震える手でヴィクトールのシャツを掴み、呼吸を整えようと、一旦彼の胸に顔をうずめる。
「ぁあ……は、ぁあ、あ」
その間も、ぐりぐりとナカを刺激してやる。自分にしがみついてくるヘンゼルに、胸が焼き付きそうになる感覚をヴィクトールは覚えていた。
「はやく……僕の命令、きけないの?」
「ふ、ぁ、」
よけいに、いじめたくなる。
ヴィクトールはヘンゼルの顔を掴み、まじまじと見降ろした。すっかり紅潮した頬。涙でぐしゃぐしゃになった肌。ひどく官能的で、愛おしい。
目にかかった前髪を払ってやると、どこか安心したような表情をする。
「自分が今、どんな表情しているか、わかっている?」
「……、」
「……ドールの調教は初めてではないけれど……こんなに僕を狂わせたのは、君が初めてだよ」
「……ンッ、」
もう一度、ヴィクトールからキスをした。きっと待っていてもヘンゼルは動くことができずに、キスをしてこない。その考えもある。しかし、それ以上にもやもやと鬱屈した心が鬱陶しくて、衝動的に自分からやってしまったのだ。
――自分のやるべきことは。
この青年を、「ドール」として一人前にすることであって、自分のものにすることではない。一時的に彼を自分の傍に置いているだけであって、最終的に彼は自分のもとから離れてゆく。彼に入れ込んではいけない。彼に特別な感情を抱いてはいけない――
初めて彼をみたときには、なんて綺麗な青年なんだろうと思った。きっと瞬間から、彼を他のドールとは違う目で見ていたかもしれない。でも、ちゃんと割り切っていた。ひとしきり彼を育てて、その間だけはいっぱいに愛でてやろうと、そう思っていた。でも、これでは。このままでは。
ヘンゼルを、手放したくないなんて。
そんな想いは……
「ンッ、ん、んっ、んん……」
ああ、イきそうなんだな。
ヘンゼルの声が段々と上擦って、呼吸の間隔が短くなってきた。シャツを握りしめる力も強くなっている。
イけ。
イっていまえ。
僕の腕のなかで、僕に抱かれて、僕にキスをされながら……
ジリジリと何かが燃えるような、ブクブクと何かが膨らんで肺を圧迫するような、そんな息苦しさを覚える。込み上げる情念に、見覚えがない。ただの嗜虐心?ちがう。それを超えた、何か。
「ん、んっ、ン――」
ヘンゼルの限界を感じ取った瞬間、ヴィクトールは思い切りバイブを彼の前立腺に押し当て、そして後頭部を鷲掴みしキスを深めた。自分の存在を刻み込むように。この快楽を与えているのは、この僕なんだと――
「――はぁ、ッ……! ん、は、ぁあ……」
ヘンゼルが絶頂に達したところで、唇を離してやる。ヴィクトールの腕に支えられてぐったりとしたようすのヘンゼルから、とめどなく吐息が零れる。
「……」
そんなヘンゼルを見つめるヴィクトールの瞳の中の光はゆらゆらと揺らめいていた。僅か、迷ったように目を伏せたかと思うと、指でヘンゼルの唇についた唾液を拭って、濡れた瞼に口付けを落とす。
「……命令、守れなかったね。君からキスしてって言ったのに」
「……すみ、ませ……」
「……いいよ、今回だけね」
「――あぁっ……」
ヴィクトールはヘンゼルのナカにあったバイブを引き抜いてやった。そうすればさみしげな声が零れて、また虐めたくなってしまう。
「立てる?」
「……」
「無理? 仕方ないなぁ」
ゆっくりと首を振ったヘンゼルに、ヴィクトールは困ったような笑顔を落とした。そして、彼を抱えると、立ち上がる。
「運んであげる」
「……」
「お礼は?」
「……ありが、……う」
「ふふ、そう。いい子だね」
もう一度、唇に優しいキスを。どこか安心したように目を閉じて、胸元に頬を寄せてきたヘンゼルに。狂おしいくらいの愛おしさを覚えた。
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